物語の育て方

 心の動かし方ってのは難しいものです。他人の心を動かすことはおろか、自分の心を動かすってのも一生をかけての難事業なんだと思います。
 物語に出てくる登場人物だってそうです。彼らの心の変化や機微を描くのに、どれだけの骨を折ることか。

 けど、ときどき思うのが登場人物を無理に動かそうとすると話が破綻するなあ、と。
 更に言えば、登場人物が勝手に動き出すレベルにまでならんと話としては面白くならないなあ、と。少なくとも、書き手側としてはツマラナイですし、書き手が楽しめていないものを読者が楽しめるとも思えません。
 んで、結局物語を通して自分が何を楽しんでいるかと突き詰めてみると、私は登場人物の成長を楽しんでいるフシがあるんですね。
 様々な葛藤を抱える登場人物たちが、試練や壁にぶつかり、それを乗り越える過程で成長していく。物語としてはありふれたパターンかもしれませんが、それって皆が求めているから世に多くの成長物語が溢れているんだと思います。
 登場人物を描くためには、彼らの成長に寄り添うことが必要です。
 そんなことを『河合隼雄の“こころ”』(著:河合隼雄)を読みながら思ったわけです。

 この本では、臨床心理学者の河合隼雄氏が、主に子どもたちの心のあり方や、その寄り添い方を語っています。
 その中でも、特に印象に残ったのが「心を育てる」という章です。
 河合氏はかつて中央教育審議会など「心のことは、学科を教えるように教えられるものではない。心は“教える”というより“育てる、育つ”ということが大切なことを忘れてはならない」と発言したそうです。
 これを読んで目からウロコが落ちました。
 まさしく、河合氏の言うとおりなんです。
 心は他人から言われたことではなく、自分で体験したり感じたりしたことを栄養にして成長するんです。
 だから、物語を書く上でも一緒です。作者は登場人物を完璧に操作することなんでできません。むしろ、ある程度、イベントや試練を与えて、どうやってそれを乗り越えるか彼らと一緒に悩む。そうしている間に、登場人物の方が勝手に育っていく。
 それが本来の成長物語のあり方なんだと思います。
 また、そういう風に物語がかけたとき、登場人物だけでなく作者の心が育まれるのだと思います。
 心を意図的に操作せずに、育つのを待ってみる。時間はかかるかもしれませんが、案外、それが豊かな物語を書く近道なのだと思います。

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