ブレイクスルー・ロマンス

 テレビや書籍などで「今は激動の時代」みたいな言い回しをよく目にしますが、私はこれに首を傾げずにはいられません。
 現在のどこら辺が激動の時代なのでしょう。少なくとも現在日本が歴史的にみて激動の最中にあるとは思えません。極端な比較ですが、戦国乱世や明治維新の世の中と比較すれば実に平和な時代です。
 けれどメディアは「今は激動の時代」と煽り立てます。これはもはや、現実に激動の時代であるかどうかではなく、激動を欲している時代と解釈するべきでしょう。
 ではなぜ、激動を欲するかといえば答えはシンプル。単に現在が停滞の時代だからです。
 高度経済成長もバブル景気も前世紀の出来事。日本は現在、成長社会というより成熟社会と表現すべき状況に置かれています。
 成熟といえば聞こえはいいけれど、それは裏を返せば伸びしろが少ない停滞状態ともいえます。

 停滞という淀みを押し流すには、それまでとは違うパラダイムが必要です。そんなことを考える私が出会ったのが今日の一冊『ブレイクスルー思考 ニューパラダイムを創造する7原則』(著:ジェラルド・ナドラー)です。
 この本とは古本屋で出会ったのですが、背表紙を見た瞬間にトキメキに似たものを感じました。いうなれば一目惚れです。
 人間関係で一目惚れするとロクな目に遭わない私ですが、本選びに関しては例外です。良い本を見つけたものだと自分を自画自賛しています。
 ブレイクスルー思考は、思考のパラダイムシフトともいうべき思考法です。
 ブレイクスルー思考は以下の七原則から成り立ちます。
①ユニーク“差”の原則
②目的展開の原則
③先の先を見た“あるべき姿”の原則
④目的“適”情報収集の原則
⑤システム思考の原則
⑥参画・巻込みの原則
⑦継続変革の原則
 これら七つの原則を、更に3つにまとめると以下のようになります。
・同じ状況は1つとして存在せず、そのため解決策にはユニーク差が求められる
・問題を分析するのではなく、目的を達成する方法を考える
・課題についてシステムとして考える
 本の中で筆者が語っていますが、これらの考え方は17世紀にルネ・デカルトが端を発した分析的な手法とは正反対のものです。その上で、筆者はデカルト思考の危険性を指摘しています。

 デカルト思考では、過去に起きたことを徹底的に数量化し、分析すれば自ずと問題の解決策を見つけられるとされます。これは極端に言えば、過去に成功したことを繰り返せば、再び成功を得られるという結論にもなりかねません。しかし、現実を見ればこの考えがいかに頭でっかちかは言うまでもないでしょう。

 デカルト思考だけでは、輝かしい未来を得ることはできそうにありません。むしろこれからはブレイクスルー思考が求められます。
 昨今の成功している企業では、ブレイクスルー思考と思わしきパラダイムが息づいています。地域密着型の経営を行っている企業なんて、まさしくブレイクスルー思考です。その地域が持っているユニーク差に着目し、その魅力を最大限活かしていく。そしてそれを行うためには、そもそも自らの企業がどのような「目的」のために存在しているのかをきちんと定義し、人々を巻込んでコミュニティというシステムを作り上げる。
 ものが溢れる成熟社会においてブレイクスルー思考は、停滞の澱を洗い流すパワフルさを秘めています。

 この本の中で筆者は、ブレイクスルー思考の七つの原則と重ね合わせるためにウォルト・ディズニーが晩年に語った成功の秘訣を引用しています。
 その言葉とは「“考え”、“信じ”、“夢見て”、“挑戦する”」です。
 なんともロマンチックに過ぎる言葉かもしれませんが、そこに私はブレイクスルー思考の本質を見ています。
 デカルト的な思考法では、目の前の問題をそれ以上分割不能な要素にまで砕いてから解決策を探していきます。もちろん、それはそれで大事なことですが、問題の分割は最初に行うべきことではありません。その前に「そもそも自分たちはどこに行きたいのか」という目的地を定める必要があります。目的地もないまま歩き始めるのは無謀というものです。“あるべき姿”という理想を予め掲げることが重要であり、ブレイクスルー思考ではまさにその点が説かれています。
 何かを創り上げたいのならば、自分の理想ときちんと向き合う。そういったロマンとも言える階梯を踏まえなければ、真にいい仕事はできないということをブレイクスルー思考からは読み解けます。

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