化物語に学ぶ濁点の魅力

※この記事は、以前別のサイトで掲載して頂いていたものを加筆修正したものになります。

 皆様は『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』(著:黒川伊保子)という本を御存知でしょうか? と、いきなり書くと「ちょっと待て、これは『化物語』の話じゃなかったのか?」というツッコミが飛んできそうですね。しかし御安心を。これは『化物語』についての記事です。

 今回のメインテーマとさせて頂いたライトノベルは西尾維新先生の『化物語』です。
 とはいえ『化物語』は、ラノベを読まれる方の中では、超がつくほど有名な作品です。なので、まずいきなり出てきた『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』という本について軽く紹介します。
『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』は、言葉の響きが人に与える印象についてが書かれている本です。例えば名前だけ聞くと『プーチン』より『ゴルバチョフ』の方が何となく強そうだし、『こだま』より『ひかり』の方が速い新幹線のような印象を受けますよね。こういったことが科学的に分析されています。また、濁音を含んだ言葉は、濁音を含まない言葉よりインパクトがあるといったことも書かれています。
 さて、ここで『化物語』に話を切り替えてみましょう。『化物語』には多くの個性豊かなヒロインたちが登場します。言い方を換えればインパクトが強いといっても良いでしょう。そんなヒロインたちの名前に私はとある共通点を見いだしました。
 それは一体何なのか? 参考までに『化物語』に登場するヒロインたちの名前を書いておきます。彼女たちの名前の共通点とは何でしょう?

 戦場ヶ原ひたぎ《せんじょうがはら・ひたぎ》
 八九寺真宵《はちくじ・まよい》
 神原駿河《かんばる・するが》
 千石撫子《せんごく・なでこ》
 羽川翼《はねかわ・つばさ》
 忍野忍《おしの・しのぶ》

 答えは『全員の名前に濁音が入っている』です。
「濁音の入っている名前なんて珍しくないじゃん」というツッコミを入れる前に、皆さんの周りの人間(例えばクラスメイト)の名前を何人か思い出してみて下さい。その中の名前に濁音が入っている人は果たして何パーセントいるでしょうか? ちなみに私が高校三年生の時のクラスメイトの濁音率は約六十パーセントでした(※卒業アルバムで確認済みです)。つまり半分強は濁音を含む名前だけど、半分弱は名前に濁音を含まないと言っても問題はないと思います。つまり六人もヒロインがいたら、二人くらいは濁音を含まないキャラがいないと不自然です。統計的に偏っています。もっと言ったら主人公の阿良々木暦《あららぎ・こよみ》にも濁音が入っています。登場人物で濁音が入っていないのは精々、忍野メメ(※この人は女性ではなくアロハのオッサンです)くらいです。

『化物語』のヒロインの濁音率が異様に高いのが偶然なのか作者の西尾維新先生の意図したところなのかは私に知る由はありません。しかし、そうなった原因を想像して楽しむことは可能です。
 前述の通り『化物語』の女性陣は非常にインパクト満載です。特にメインヒロインの戦場ヶ原ひたぎ嬢(※怖いから私は呼び捨てにできません)は凄まじいの一言に尽きます。第一話『ひたぎクラブ』において彼女は全身を文房具で武装し、あまつさえ主人公の阿良々木暦の口内にホッチキスの芯を突き刺します。その後、彼女は阿良々木暦と交際を始めますが、暴言毒舌は日常茶飯事、挙句の果てはデートに自分の父親を同伴させるなんて暴挙にまで及びます。
 他のヒロインもひたぎ嬢と同じくクセが強いです。そんなキャラにマッチした名前をつけようとしたら、濁音が持つインパクトや引っかかる感じが必要になるのは、いわば必然です。逆に濁音抜きの清音だと「これ、キャラと名前が合ってなくね?」とすら思うでしょう。
 また『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』には、『ガギグゲゴ』の音は、特に男性の心をキャッチする音だと著されています。例えば『ガンダム』や『ゴジラ』などがその例です。

 そう考えると『戦場ヶ原ひたぎ』という名前は男性の心をキャッチしてやまないでしょう。ひたぎ嬢の言葉を借りれば『蕩れ』です。幾人もの男性がひたぎ嬢に蕩れてしまったのも無理がありません。何しろ『戦場ヶ原ひたぎ』にはガ行が二つも入っているのですから。皆さんの周りにそんなアグレッシブな名前の女性はいますか? 少なくとも私の周りにはいません。残念なような一安心なような複雑な心境です。

 こういう視点で見ていくと『化物語』は、読者の直感的、あるいは本能的な部分にうったえる作用を持っているといえそうです。
 そして、同時に私はこんなことを思います。
 ――西尾維新先生のネーミングセンスを自分の創作活動に生かせるのではないか?
 つまり『芸は盗むもの』ということです。
 創作小説(特にライトノベル系)を書かれている方には、キャラクターを作る際に「インパクトのある名前をつけたい」と思ったことのある方は多いのではないでしょうか? 少なくとも私はそう思うタイプの人間です。ネーミングに凝り過ぎて本編に中々取り組めないことすらあります。
 しかし、『クセのあるキャラには濁音を入れる』という指針があれば、キャラを命名するのが幾分か楽になるのではないでしょうか。これは逆に言えば『素直なキャラには濁音を入れない』という指針にもなるでしょう。
 あるいはキャラの名前だけではなく、作品タイトルにインパクトを持たせるのにも使えるかもしれません。参考までに書いておくと『このライトノベルがすごい』の一位入賞作のタイトルには高確率で濁音が含まれています。
 こういうことが分かってくると、ネーミングセンスも努力次第で改善できる気さえしてきます。発明家のトーマス・エジソンも「天才とは一パーセントの閃きと、九十九パーセントの努力である」と言っていますし。
 結局、『化物語』で何が一番の化物かと言えば、作者である西尾維新先生の天才さ加減なのかもしれません。

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