登場人物が行動する動機

 登場人物が何かしらの行動を起こす際には、何かしらの動機が必要となります。例えば、「強敵と戦う」という行動を取るにしても「自分の身を守るため」「愛する人を守るため」「職務を遂行するため」など考えられる動機は様々です。
 登場人物の動機は、不自然であってはいけません。「強敵と戦う」という行動を起こす動機が「愛する人を守るため」であったなら、戦う道を選んだ登場人物にとって、守るべき相手は自分の命を賭しても構わない人物でなければ話としては不自然です。
 登場人物の行動を読者に不自然に受け止められないためには、事前にその行動を取るに足りる根拠を描写しておく必要があります。

マズローの欲求段階説

 では、人の動機はどのように生み出されるのでしょうか?
 それを考える上で参考になるのが、マズローの欲求段階説です。これはアメリカの心理学者A.マズローによって提唱された理論です。
 この理論によれば、人間の欲求(言い換えれば動機)は、以下の五段階に分類され、第一段階から第五段階に進歩していくとされます。

【第一段階】生理的欲求:生命活動を維持したい
【第二段階】安全の欲求:安全に暮らしたい
【第三段階】所属と愛の欲求:仲間や恋人とつながりたい
【第四段階】承認の欲求:人から認められたい
【第五段階】自己実現の欲求:理想の自分になりたい

 前述にある「強敵と戦う」という行動を取る動機について考えみましょう。
 まずは、「生理的欲求」に従って「強敵と戦う」場合です。例えば、主人公が飢えに飢えている状態で、誰かが食料を持っていたとします。もう、その食料を奪うしか生き残る道がない場合は、その相手がいかなる強敵であっても戦いを挑んでも不思議ではありません。これが「生理的欲求」に従って「強敵と戦う」場合の例です。
 二番目は、「安全の欲求」に従う場合です。これには、自らの身の安全を脅かすモンスターが自分の暮らす環境に侵入してきたなどの例が考えられます。モンスターを駆逐しなければ安心して生活できないとあれば手に武器を取っても不思議ではありません。ただし、注意しなくてはいけないのは、目的はあくまで自分の安全の確保なわけですから、逃げた方がリスクを減らせる普通は逃走という手段をとります。安全のために戦うのは、あくまで逃げ場を失って破れかぶれになったときくらいの方が人間の行動としては自然です。
 三番目は、「所属と愛の欲求」です。大切な仲間や恋人のために戦う場合がこれに相当します。
 四番目は「承認の欲求」です。他者からの尊敬、地位、名声、利権、注目などを得るために戦う場合が当てはまります。
 最後は「自己実現の欲求」です。理想の自分を目指して強敵と戦う場合です。社会のため、あるいは世界のために崇高な目標を掲げている人物がその例です。この状態は立派である反面、物語の登場人物として凄すぎて感情移入し難いかもしれません。
 以上あげた五つの段階で注意しなくてはならないのは、段階として低い次元にある欲求が満たされなければ、高い次元の欲求を満たそうという気が起こらない点です。例えば、生命活動の維持が満足にできない状態では安全なんて言っていられませんし、我が身の安全を保証できなければ仲間を大切に思うなんて余裕は生じません。

マズローの欲求段階説だけが正しいのか?

 実は、このマズローの欲求段階説は万能ではありません。いくつもの欠点が指摘されています。
 例えば、この理論では人間が自己犠牲で行動を起こす理由が説明できません。自分の生命よりも、愛する者の生命を優先するという例は枚挙にいとまがありません。
 それを説明する心理学の理論も多々存在しますが、そういった理論にも穴は存在します。万能の理論などないのです。
 理論はあくまで人間の動機付けを説明するガイドラインであり、最後は書き手のセンスにかかってきます。常日頃から人間に関する観察や考察を深めて、より人間らしい登場人物の作りに努めてください。

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