コンセプト・ターゲット・ベネフィット

※2014年6月26日(木)加筆修正

 マーケティングの世界では、まず商品のコンセプトをはっきりさせることが求められます。そして、コンセプトをはっきりさせるためにターゲットやベネフィットを絞り込んでいきます。
 コンセプト・ターゲット・ベネフィットとは以下のような意味です。

  • コンセプト:商品の特徴や販売する意図は何か
  • ターゲット:商品を誰に向けて販売するか
  • ベネフィット:その商品はどのように消費者の要望を満たすのか

 これらの要素を、小説作りにも応用してみようというのが今回の話です。
 中には「小説は“作品”であって“商品”ではない。商業主義に走るのはけしからん」という感想を抱く人もいるかもしれません。
 もちろん、誰にも読まれなくても自分の内面を掘り下げていくことこそ小説の価値だと考える人もいるでしょう。それはそれでいいと思います。
 しかし、本音を言えばせっかく書くのだから、一人でも多くの人に読んでもらいたいというのが人情というものです。そこで、今回の話を書く意図(コンセプト)は、書き手(ターゲット)の多くの人に作品を読んでもらいたいという願望を満たすこと(ベネフィット)にあります。

コンセプト

 小説におけるコンセプトとは、テーマや主題という言葉に置き換えられると思います。
 テーマとは、作品を通じて、作者が読者に伝えたいことをいいます。どのようなテーマで書くかを明確にすることは、ストーリーに一貫性を持たせることにつながります。逆をいえば、テーマを決めないまま書き進めると、作品の軸がブレるおそれがあります。
 テーマは何を選んでも基本的に自由です。
「戦争は反対だ。平和こそが尊い」という硬派なものでも、「主人公がとにかく異性にモテる話を書きたい」という娯楽色の強い話でも構いません。
 しかし、何かテーマを選んだら、書き手はそのテーマについて真剣に考えなければなりません。自分が書く内容が、テーマ(コンセプト)に見合うものかどうかを厳しく見つめる姿勢が必要になります。
 小説を書く上では読者が求めるものと、作者が書きたいもののバランス感覚も重要です。マーケティング用語を使えば「読者が求めるもの」はニーズであり、「作者が書きたいもの」はシーズと言えるでしょう。
 シーズとは「Seeds」に由来する言葉で、将来大きく実を結ぶ可能性を秘めたものをいいます。マーケティングにおいては自社が持つ独自の技術や原料です。小説を書く上では作者が持っている面白い話のネタや執筆技術がこれにあたるといえます。
 ニーズとシーズはどちらかに偏るといい作品を作ることが難しくなります。ニーズだけを重視すると作家の個性が生かせません。しかし、シーズだけを重視すると作家の独りよがりな作品になってしまいます。大切なのは、読者のニーズと作者のシーズを満足させられるポイントを探すことです。
ニーズとシーズ

 作者のシーズが何なのかを整理する上では自分の強みと弱みを知ることが欠かせません。自分は恋愛経験が豊富だからラブストーリーのネタには事欠かないという人もいるでしょうし、オカルト方面の知識に明るいから緻密な設定のファンタジーが書ける人もいるでしょう。これが強みであり、どんどん生かしていくべきです。逆に人脈が狭いから誰かに取材する必要がある作品は難しい、理系科目が苦手だから科学考察は苦手などが弱みにあたります。
 また、小説の場合、読者に作品のコンセプトを伝える上で大事なのがタイトルのネーミングであるといえます。なぜなら、つまらなそうなタイトルでは、読み手側が中身すら確認してくれない可能性があるからです。
 タイトルのネーミングは、独自性・想起性・明瞭性・永続継続性の4つのバランスで考えると良いと思われます。これら4つの意味合いは以下の通りです。

  • 独自性:オリジナリティがあるかどうか
  • 想起性:中身をイメージしやすいかどうか
  • 明瞭性:覚えやすいかどうか
  • 永続継承性:時間が経っても陳腐化しないかどうか

 私の個人的な印象でいうとこれら4つの要件を満たしているタイトルの小説の1つとして『ソードアートオン・ライン』(著:川原礫)が挙げられると思います。このタイトルは既存の別作品とかぶっていないので独自性があり、「オンライン」という単語からはネットの世界を舞台にしているのだろうと想起できます。また、シンプルにまとまったタイトルなので明瞭であり、第1巻の発売から数年立っていますがタイトルに古臭さを感じません。タイトルは作品の顔ですので、優れたネーミングを目指してエネルギーを注ぐ価値があるはずです。

ターゲット

 例えば、女性の読者を想定しているのに、男性主人公が美少女からとにかくモテる話を書いたらどうなるでしょうか。おそらく、その話は失敗するでしょう。逆に、男性の読者を想定しているのに、女性主人公が美男子から言い寄られる話を書いたら見向きもされないでしょう。
 では、なぜそんなことが起きるかといえば、そもそもターゲットの選択が間違っているからです。
 あるいは、ライトノベルは10代から20代の若者が読むジャンルです。なので、同年代の登場人物が主人公でなければ読者の共感を得るのは難しいのではないかという考え方もできます。
 ターゲットを絞る上で大切なのは、欲張りすぎないことです。老若男女どんな人にも共感を得られる物語を書きたいという心意気は素晴らしいことです。しかし、最初から万人受けを狙ってつくられたものは、毒にも薬にもならずに終わる危険性を孕んでいるものです。また、普遍的で高尚な文学を目指すのもこの類と言えるでしょう。普遍性を追求するあまり、あれもこれもと詰め込みたくなって話としてまとまりがなくなるのは避けたいところです。
 ところで、広すぎるターゲットの設定とは真逆のパターンには、特定の個人のために書くというものがあります。一見すると「一人のために書いたって、それ以外の人の心に届かないのではないか?」と勘ぐりたくなりますが、そうでない場合も存在します。『不思議の国のアリス』(著:ルイス・キャロル)がその代表例です。この作品は言わずながら世代を超えて読み継がれる世界的な名作です。ところが、著者のルイス・キャロルは最初から万人のためにこの話を執筆したわけではありません。元々『不思議の国のアリス』は、作者と親しい付き合いがあった家の娘であるアリス・リデルを楽しませるために書かれたものでした。それを増補したものが世界中の人々に読まれているわけです。
 個人的なことを書くと、誰か一人のために書くのは万人受け狙いと比べて湧き出すモチベーションが全然違うものだと思うのです。誰か一人に読んでもらいたいがために書く場合、どうやったらその人の心に届くかを考えればいいだけなので雑念が入りにくくなり、集中して書くことができるのです。
「ターゲット」という言い回しだとかなり商業主義的に聞こえますが、要するにこれは「物語を伝えたい相手」を意味しています。物語を書く上では、想定している読手がどう思うかを想像する力も求められるのです。

ベネフィット

 これから描く物語は、読者にどんな価値をもたらすのか考えるのも重要なポイントです。
 コメディ作品には読者を愉快な気持ちにさせるという価値がありますし、バトル物には読者に手に汗握ってもらうという価値があるでしょう。
 読者が作品に求める価値は多種多様です。一概に、どのジャンルが優れているとは言いがたいものがあります。
 しかし、ただひとつ言えることは、どのような作品を読むのであれ、読者は時間というコストを支払っているということです。それに見合うだけの物語を提供できなければ、読者は辟易するか損をしたと思うでしょう。ここでも読者が作品をどう感じるかを想像する力が求められます。
 また、コストというものに着目するならば作品の読みやすさにも配慮する必要があります。特にインターネット上で自分の作品を公開する場合には体裁にこだわるべきです。
 最近では「小説家になろう」などの投稿サイトもありますが、個人サイトでの発表の場合、自分で文字の大きさや色、行間のスペースやページ間のハイパーリンクの設定を行います。例えば、どぎつい背景色にゴマ粒みたいに小さな文字で書かれた小説などあったら、どんな名文が書かれていたとしてもページを開いた瞬間に即バックされるのがオチです。レイアウトが破綻しているページを読むのはそれだけで心理的コストがかかるのです。
 なにかしらの作品を公開するならば、書き手も読者も価値が見いだせる方が優れていると言えます。なので、もう少し「価値」というものについて考察したいと思います。
 製品やサービスなどの価値を高める手法にバリューエンジニアリング(Value Engineering)というものがあります。バリューエンジニアリングにおいて価値とは、機能をコストで割ったものであるとされています。式にすると以下のようになります。
価値と機能とコスト

 小説に当てはめて考えると、価値とは読者の満足感、機能とは作品としての面白さ、コストとは価格や時間的コストや心理的コストであると考えられます。
 式は割り算ですので、価値を高める方法は以下の3パターンということになります。
①機能を高める(面白い話を書く)
②コストを下げる(読者の負担を減らす)
③コストを少し上げる代わりに機能を著しく高める
 第4の選択肢として「機能を少しだけ下げてコストを著しく下げる」というのもなくはありませんが、「どうやったら面白い話を作れるか」という話題にはそぐわないので、これは無しの方向でいきましょう。
価値を高める方略

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