ゆきてかえりし物語

※2015年06月08日(月)加筆修正

 ゆきてかえりし物語という言葉は、トールキンが著したファンタジー小説『ホビット―ゆきてかえりし物語』から引っ張って来たものです。
「ゆきてかえりし」とは、「どこかに行って、そして返ってくる」という意味です。
「ゆきてかえりし」は、物語の典型的な構造であると言えます。
 例えば、浦島太郎や桃太郎の物語も、「ゆきてかえりし」の構造を持っていると言えます。
浦島太郎では、陸に住んでいた主人公が海の底の竜宮城に行って、そして再び陸上に帰ってきます。桃太郎では、主人公は仲間たちと鬼ヶ島へ行って鬼を倒し、お爺さんとお婆さんのもとへ帰ってきます。
 ではどんな場所に行っても「ゆきてかえりし物語」になるかと言えばそうではありません。「ゆきてかえりし物語」の特徴は、主人公が日常の世界から非日常の世界へ入り込むところに特徴があります。
 日常の世界とは主人公が普段生きている世界とも言えます。自宅や学校や職場などがこれに当たります。
 一方で非日常の世界とは普段の主人公とは縁のない世界です。例えば、普段は立ち寄らない街や国、立ち入り禁止区画や地球上にはない異世界などがこれにあたります。
 ゆきてかえりし物語では、主人公は非日常の世界で様々な出会いや試練を通して成長し、日常の世界に戻ってきます。
 ゆきてかえりし物語の構造を図化すると以下のようになります。
ゆきてかえりし物語

境界守

 下図において、日常と非日常の境界線を見てください。
ゆきてかえりし物語(境界守)
 日常の世界にいた主人公は、日常と非日常との境界を越えて非日常の世界に突入します。一般的には境界を越えるにあたっては境界守と呼ばれる役割の存在から勝負を挑まれたり、課題を出されるなどします。「私を倒さなければ、ここから先は通さん」みたいな台詞を言うのが境界守です。境界守については別の記事にまとめてあります(「噛ませ犬の必要性」を参照)

クライマックスはどこ?

 私の個人的な思い出ですが、高校の国語の授業で芥川龍之介の「羅生門」を習ったことがありました。その中で「この物語のクライマックスはどこでしょう?」みたいな問いがあったのですが、私は解説を受けてもピンときませんでした。
 クライマックスとは、物語において一番の盛り上がりをみせるシーンをいいます。
「羅生門」においてのクライマックスとは、主人公の下人が門の中にいた老婆から追い剥ぎをする直前の台詞、

「では、己(おれ)が引剥(ひはぎ)をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」

 だそうです。
 ここで問題となるのは「盛り上がる」という言葉はかなり主観的な部分を含んでおり、わかりにくいという点です。「個人的には薄暗い門の中で不気味な老婆がいてビビった。だから、ここがクライマックスじゃダメなの?」と問われると返すのは難しそうです。
 
しかし、ゆきてかえりし物語の概略図を使えば物語のクライマックスが一目瞭然です。下図において赤い点でプロットした部分、つまり日常の世界とは一番かけ離れた場所がそれです。
ゆきてかえりし物語(クライマックス)
「羅生門」においては、日常の世界における下人は饑死をするか盗人になるかすら迷っていました。下人にとって老婆を襲うという行為は日常から最もかけ離れていると言えます。そのような理由からも上記の下人の台詞がクライマックスであるといえるのです。

呪的逃走

 日常から最も遠いところで最大の試練に直面した主人公は、日常の世界へと戻ろうとします。
 ストーリーの中には、すんなりと日常の世界に戻れる場合もあります。しかし、帰り道で何かのトラブルに見舞われこともあります。
 例えばRPGでラスボスを倒して、さあラストダンジョンから脱出しようとしたところにダンジョンが崩壊し始めて大ピンチなんてパターンをよく見かけます。
 あるいは、日本神話を例に出すと黄泉の国でイザナミの変り果てた姿を見たイザナギが大慌てで逃げ帰る物語があります。この際に、イザナギはイザナミのつかわしたヨモツシコメに追いかけられ捕まりそうになります。
 しかし、イザナギは櫛というアイテムを使い、最後まで逃げ切ることに成功します。
 このように、追っ手から逃れるときに何らかのアイテムや行為が手助けになることがあります。これは『呪的逃走』と呼ばれ、神話や昔話によく見られるパターンです。
呪的逃走

ゆきてかえりて何が変わる?

 日常から非日常の世界に行って帰ってきた主人公には、何かしらの変化があります。
 これには金銀財宝を手に入れたとか、魔王や悪いドラゴンに捕まっていたお姫様と結ばれたとか分かりやすい場合もあります。
 あるいは、主人公が人間として成長を遂げたという内的な変化の場合もあります。内的な変化としては、スタジオジブリが制作した「千と千尋の神隠し」が分かりやすい例かもしません。
 あの作品では主人公の少女が不思議な世界に行って帰ってきますが、金銀財宝を手に入れたとかそういう話ではありません。
 しかし、不思議な世界で過ごした時間は主人公の少女を人として成長させたといえます。

反照法を利用する

 ゆきてかえりし物語の効果を高める方法として、反照法があると私は考えています。
 反照法とは、物語の冒頭の言葉を再び物語のラストに使う方法をいいます。
 例えば、漫画「最終兵器彼女」の冒頭部分では、以下のようなモノローグがあります。

ちせはかわいい。
だが、のろい。
チビだし、気が弱い。
おまけにドジっ子で
成績も中の下。
世界史だけが得意。
口癖は「ごめんなさい」。
座右の銘は「強くなりたい」。

 そして、物語のラストにおいてもこれとほぼ同じモノローグが入ります。
 ゆきてかえりし物語においては、非日常の世界に巻き込まれた主人公は元の日常の世界に戻ってくる必要があります。
 反照法を使うことにより、帰ってきた場所が物語の冒頭と同じ世界(=日常の世界)であると強く印象づけることができます。

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