ウラジミール・プロップの31機能

 ロシアの民俗学者ウラジミール・プロップは、民俗学に構造主義的な研究を取り入れました。構造主義とは、何かの物事や現象に対して、それらの裏にある構造を抽出・理解しようとする方法論をいいます。

 例えば、以下の文章を比べてみてください。
①王は、勇者に馬を与える。馬に乗って勇者をもう一つの王国へと旅へ出る。
②父親が、息子に自転車を買い与える。息子は、自転車に乗って買い物へ行く。
 これらの文章は、一見しただけでは関連がなさそうです。①はファンタジー物語みたいな世界観ですが、②の方は現代物の物語のような雰囲気です。
 では、全く共通点がないかといえばそうではありません。
 両方の文章に2人の人物とアイテムが登場し、登場人物の一方が行動を起こします。
 更に例文①と②、そして①と②の共通点をまとめると以下の表のようになります。
 両方の例文には『誰かが他の誰かに移動手段を与えられ、それを使って移動する』という共通点があります。この共通点こそが構造であり、構造主義ではこのような構造を分析していきます。

 プロップは以上のような方法論を用いて、魔女や王様が登場する魔法民話を分析しました。世界中には数え切れないほどの魔法民話が存在しますが、プロップはそれらが31項目の機能で成り立っているのだと分析しました。

魔法民話の登場人物間の種類

 プロップが唱えた魔法民話の31機能を説明するためには、まず魔法民話の登場人物について分類する必要があります。
 プロップによれば、魔法民話の登場人物は以下のように分類されます。

主人公

 主人公は、物語において目的を果たすために日常の世界から出立します。出立した主人公は様々な試練をクリアし目的を果たして帰還します。

敵対者(加害者)

 敵対者は、主人公の敵となる人物です。何がしかの目的を持って出立した主人公を様々な手を使って妨害します。

贈与者(補給係)

 贈与者は、主人公に対して物語を進める上でのカギとなるものを授けます。ここでいう「もの」とは武器やマジックアイテムなどの実体のあるものだけとは限りません。主人公が元々持っている素質や能力などを生かす知識なども含まれます。

助手

 助手は主人公の目的達成をサポートします。
 助手と贈与者は区別が付きにくい部分があります。ですが、主人公が舟を使って移動することになった場合を想像するとわかりやすいかもしれません。
 もしも、主人公に舟を与えるだけで、主人公と行動を共にするわけでないならその人物は贈与者に分類されます。一方で、主人公が持っている舟の操縦を代行するなら助手に分類されます。

王女とその父

 魔法民話において王女は敵対者により攫われます。それにより、その父は王女を失ってしまいます。
 王女とその父という分類に関してプロップは、機能をもとに厳密に分類することは不可能であると述べています。

派遣者

 派遣者は、主人公に王女を探させるミッションを与えます。主人公は必ずしも自発的に日常の世界を出立するとは限らず、派遣者の依頼により行動を開始することが多々あります。また派遣者は、主人公が依頼を達成した場合に報酬を与える役割を担っています。

ニセの主人公

 ニセの主人公は、ロシアの魔法民話に特徴的なキャラクターと言えます。敵を倒した主人公の手柄を横取りする人物です。敵を倒した主人公は、ニセの主人公が嘘をついていることを暴き、自分の手柄であることを証明することになります。

物語の31機能

 以上のように分類した登場人物によって物語は展開していきます。その上で、プロップは物語が31の機能で構成できるとしました。
 プロップが唱えた物語の31機能とは以下のものになります。

01.不在

 家族の成員のひとりが家からいなくなります。これにより、主人公の物語が始まります。家からいなくなるのは主人公の場合もありますし、敵対者に加害行為を受ける犠牲者(例えば後々に攫われる)の場合もあります。また、不在となる理由は単に家を空けるだけではなく両親の死という場合もあります。

02.禁止

 主人公は、何らかの禁止事項を課せられます。例えば、「この部屋を覗いてはいけない」や「外に出てはいけない」がこれにあたります。

03.違反

 禁止事項が破られてしまいます。禁止事項が破られる理由は意図的な場合もありますし、偶発的な場合もあります。
 禁止事項が破られたことにより敵対者が行動を起こし始めます。

04.探り出し

 行動を起こし始めた敵対者は、まず主人公や犠牲者、あるいは他の登場人物から重要な情報を聞き出そうとします。重要な情報の種類には、王女の居場所や魔法アイテムの在り処などがあります。

05.情報漏洩

 重要な情報が敵対者に伝わってしまいます。作中の誰かがうっかり秘密を漏らしてしまうというのがよくあるパターンです。

06.策略

 敵対者は、犠牲となる者なりその持ち主なりを手に入れようとして、犠牲者となる者をだまそうとします。

07.幇助

 主人公や犠牲となる者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助けてしまいます。

08.加害あるいは欠如

 敵対者により、登場人物の誰かが過ごす日常世界が害を受けます。例えば、家族の成員のひとりが攫われる、大切なアイテムが奪われる、戦争が仕掛けられるなどがあります。
 平穏な暮らしが奪われたその人物は、その欠落を回復したいと思うようになります。

09.仲介・つなぎの段階

 敵対者に被害を受けたのが主人公と別人物だった場合、被害や欠如が主人公に知らされます。そして、主人公に頼むなり命令するなりして主人公を派遣したり出立を許したりします。
 例えば、王女が敵対者によって行方不明になった場合、その父が主人公の依頼主になります。

10.対抗開始

 主人公が敵対者に対抗する行動に出ることを決意します。この場合、主人公が快く依頼を請け負う場合もありますし、嫌々ながら依頼を承諾する場合もあります。

11.出立

 主人公が家を後にします。つまり、冒険の旅が始まるわけです。

12.贈与者の第一機能

 主人公が贈与者によって試され・訊ねられ・攻撃されたりします。そのことによって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備がなされます。
 贈与者は、主人公が冒険を達成する上で必要なアイテムや能力、あるいは助手を授けます。しかし、最初から素直にそれらのものを贈与してくれるわけではありません。贈与を受ける前には贈与者と一悶着あるのが通常のパターンです。これは、テレビゲームでいうなら、何らかのキーアイテムを手に入れるためにはボスバトルがあることに例えられます。

13.主人公の反応

 主人公が、贈与者となるはずの者の働きかけに反応します。例えば与えられたミッションをクリアしようと奮闘する場合や、贈与者とのバトルに応じる場合などがあります。

14.呪具の贈与・獲得

 贈与者との一悶着が決着し、主人公が呪具(あるいは助手)を手に入れます。直接相手から渡される場合もありますし、隠し場所を教わったり、売ってもらったり、ときには略奪する場合もあります。贈与者は必ずしも善意の人とは限りません。
 また、贈与者自らが「私が旅のお供をして協力しましょう」と申し出る展開は、贈与者が自らを助手として贈与したと定義します。つまり、贈与者=助手という図式が成り立ちます。一つの登場人物が複数の役割を持つ場合もあるのです。

15.二つの国の間の空間移動

 主人公は、探し求める対象のある場所へ、連れて行かれる・送り届けられる・案内されるなどします。基本的に民話では主人公は一気に敵対者の居場所まで移動します。
 一方、現代の物語ではいきなり敵対者のところまでたどり着いては盛り上がりに欠けます。そこで、12→13→14の機能を繰り返して敵対者を追うことになります。

16.戦い

 主人公と敵対者が、直接に戦います。
 戦い方のバリエーションは様々で、例えば魔法民話では命を賭した戦闘や力比べの場合もありますし、カードで争うなどの場合もあります。

17.徴づけ

 主人公に徴がつけられます。この徴は『27.発見・認知』の機能で意味をなします。詳しくは27の項目で後述しますが、敵対者を倒して帰還した主人公はその手柄が本当に自分のものである証明することになります。そのための伏線として存在するのが徴づけの機能です。
 印づけのバリエーションとしては例えば以下のものがあります。

  • 王女が主人公の頬を傷つけ、それにより主人公を目覚めさせる
  • 王女が主人公の額に、宝石入りの指輪で徴をつける
  • 主人公が戦いの最中に傷を負い、その傷に王女のハンカチが巻かれる

18.勝利

 主人公が敵対者を打ち負かします。
 単純に力押しで勝利を手に入れる場合もありますし、策略や卑怯な手段を使って相手を騙すという場合もあります。

19.不幸・欠如の解消

 発端の不幸・災いか発端の欠如が解消されます。
 これは『08.加害あるいは欠如』の機能に対応しています。敵対者に王女を攫われた場合は王女を救出、何かのアイテムが奪われた場合はアイテムの奪還がこれにあたります。

20.帰路

 敵対者に勝利し、加害あるいは欠如を回復した主人公が帰路に着きます。これは『11.出立』の機能に対応しています。
 物語によっては、主人公が日常の世界に帰還することにより完結することが少なくありません。しかし、ロシアの魔法民話ではここで物語が終わらないで、もう一波乱あります。

21.追跡

 帰路についた主人公は、それを妨害しようとする何者かにより追跡されます。RPGでいえば、大ボスを倒して一段落したところでダンジョンからの脱出を阻むものが現れることに相当します。
 この追跡者は、『16.戦い』から『18.勝利』で戦った敵対者の仲間であったり、それとは無関係な新たな敵、あるいは後述するニセ主人公であったりします。

22.救助

 主人公は追跡者の魔の手から逃れることに成功します。
 追跡から逃れる方法としては、例えば以下のものがあります。

  • 協力者が現れる
  • 主人公が自分の能力で解決する
  • 追跡者から身を隠したり変装したりする

 多くの昔話は、追跡者から逃れるところで幕を閉じます。しかし、ここで新たなクエストが発生する場合があります。昔話では敵対者を倒した主人公が、新たな災いや不幸に巻き込まれることがあります。一言で言えば、発端の加害行為が繰り返されるのです。その場合、主人公は再び『11.出立』から『15.二つの国の間の空間移動』を行うことになります。ここでの空間移動は主人公の真の帰還先(物語の出発点である必要はない)であり、次の『23.気づかれざる到着』につながっていきます。

23.気づかれざる到着

『22.救助』において追跡者を完全に倒しておらず、単にやり過ごしただけの主人公は未だ追跡される身となっています。そのため、敵対者を倒したにも関わらず、身を隠すように帰還することになります。

24.不当な要求

 ニセ主人公が前面に出てきて、主人公が達成した冒険の真の功労者は自分であるかのように主張します。その上で、例えば悪漢の手から救い出された姫と結婚すべきなのは自分の権利だと不当な要求をするのです。

25.難題

『24.不当な要求』で偽りの主張をするニセ主人公に対して、真の主人公は相手の嘘を告発します。例えば、王女を救出したのは自分であるという具合に名乗り出るなどします。
 しかし、それだけでは真の主人公は自分こそがミッションの達成者だと証明できません。そこで依頼者(王女を助けてもらったその父など)は、ニセ主人公と真の主人公に難題を課します。それにより、どちらが本当のことを言っているのか確かめようとするのです。

26.解決

 真の主人公が難題を解決します。
 ちなみにプロップによれば課される難題には、謎解きや力試しの他にも大食い競争や灼熱の鉄風呂に入るなど様々なバリエーションがあるとしています。

27.発見・認知

 真の主人公の方がミッションの達成者であると認識されます。これだけでも、十分に主人公が自分の英雄的行為を証明できますが、ここで『17.徴づけ』の機能が伏線として意味を持ってきます。
『17.徴づけ』には以下のようなものがありました。

  • 王女が主人公の頬を傷つけ、それにより主人公を目覚めさせる
  • 王女が主人公の額に、宝石入りの指輪で徴をつける
  • 主人公が戦いの最中に傷を負い、その傷に王女のハンカチが巻かれる

 主人公が身体に傷を付けられていた、あるいは王女のハンカチを持っていれば、それこそが主人公が、真の主人公だという証拠になるのです。

28.正体露見

 ニセ主人公あるいは敵対者(加害者)の正体が露見します。多くの場合、主人公の発見・認知に関連して、ニセ主人公の正体が明らかになります。また、ニセ主人公が真の主人公に化けていた場合は元の姿に戻ります。

29.変身

 主人公に新たな姿形が与えられます。
 これには以下のようなバリエーションがあります。

  • 主人公が美しい若者姿に変わる。
  • 新しい衣装を身につける
  • 主人公が素晴らしい宮殿を建てる

30.処罰

 ニセ主人公や敵対者が罰せられます。これにより勧善懲悪が表現されます。

31.結婚

 主人公は助けた娘と結婚します。また、助けた相手が王女である場合は即位することもありえます。これにより、物語は真のハッピーエンドを迎えるのです。

プロップの理論の注意点

 プロップは物語の機能を31という数に分類しました。しかし、すべての物語が31の機能を漏らさず持っているわけではありません。場合によっては、特定の箇所が抜け落ちていても問題ありません。
 例えば『01.不在』から『07.幇助』がなく、いきなり王女が悪党に攫われる物語もありえます。また『12.贈与者の第一機能』から『14.呪具の贈与・獲得』が何度も繰り返される場合も考えられます。

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