青春撲滅委員会

 うちの高校は実にお堅い進学校で、校風は真面目そのものだ。生徒たちも実に真面目で、ある意味で白けている連中だ。
 ところが、そんな学校の生徒会長は、相当にアグレッシブな奴である。
 名前は戸森月子《ともりつきこ》。学年は三年生。
 戸森が生徒会長に就任してから、まず着手した仕事は、とある組織の結成だった。
 その名は青春撲滅委員会《せいしゅんぼくめついいんかい》。活動内容は生徒たちの青春的活動の妨害と、青春的活動の不毛さの啓発である。
 ここでいう青春的活動とは、部活動だったり個人の恋愛だったりである。
 うちの学校は基本お勉強をするための学校みたいなところだ。けれど、部活動に励む奴も少数ながらいたし、恋愛はそういうお年頃なのでそれなりにみんな興味を持っていた。
 にもかかわらず、戸森が結成した青春撲滅委員会は、そんな輝かしい青春の一ページを全否定する。
 戸森の生徒会長としての手腕はかなり異常だ。就任一か月目には男女交際禁止を校則に追加した。現在は部活動の部費をいかに削るかを画策している。
 まったく以って、タチが悪い。
 更にタチが悪いことに、戸森は青春撲滅委員会の委員長に、生徒会副会長である俺を指名してきた。
 俺が生徒会副会長になったのは、単に内申書に花を添えるためだけだ。はっきりいって、戸森ほどのやる気はない。
 一度は拒否した。しかし、『副会長は会長を補佐するのが本分だ』などとゴネられて結局俺は意味不明な組織の委員長をやるハメになる。
 もっとも俺は火元責任者になっただけで、大した関与はしていない。組織の活動は、やる気のある非リア充だったり、過度に真面目すぎる生徒が勝手に働いてくれている。
 俺の仕事は精々、生徒会と青春撲滅委員会のパイプ役という名の使い走りだ。
 夏休みを前にしても戸森の暴走は止まらない。それどころか青春撲滅委員会は暴走の一途をたどっている。
 彼らはついには、『夏休みは勉強だけしていればいい!』という妄言をのたまい始め、それを全校生徒に押し付けようと活動を開始し始める。
 青春撲滅委員会の連中は広報紙【青春なんて生意気だ】に、夏休みにおける青春的活動の不要性を書き連ねて、全校生徒に配布。さらに、夏休み中の部活動の全面停止を校長に直訴しはじめる。
 こうなってくると、一般生徒も黙っていない。
 それまで白けた現代っ子と揶揄されてきた我が校の一般生徒たちも抗議の声を上げ始める。
 かくして、夏休みを前にして、青春撲滅委員会VS一般生徒という不穏な空気が我が校に流れ始める。
 はっきり言って、面倒臭い。俺はつつがない日々を送りたかった。
 なので、俺は夏休みが始まる前にケリをつけることにした。
 戸森への直談判である。青春撲滅委員会を即時解散させなければ、この学校は駄目になる。むしろ俺の生徒会活動が黒歴史になってしまう。
「戸森、話がある」
 期末テストが終わった当日の放課後。俺は生徒会室で一人読書に勤しんでいた戸森と対峙した。
「なにかね?」
 本から目を離さず、戸森は言った。ちなみに彼女が読んでいる本はマキャベリの『君主論《くんしゅろん》』だ。女子高生が読むような本ではない。
「青春撲滅委員会に活動停止を命令しろ。生徒会長は、この学校を良い方向に導かねばならない。にもかかわらず、お前のやっていることは、この学校に無意味な混乱をもたらしているだけだ」
 本当のところ、そんなものは建前だ。俺はただ、自分の面倒事を減らしたいだけ。
 俺の言葉に、ようやく本から目を離し、俺の方を向く戸森。そして、とんでもないことを言い放つ。
「この学校に混乱をもたらすこと。それが私の目的だ。故に青春撲滅委員会はこれからも存続させる」
 俺は彼女の言葉が理解できなかった。
 そんな俺に、畳み掛けるように戸森は続ける。
「この学校の生徒は、はっきり言って大人しすぎだよ。良い子ちゃんは教師からすれば都合の良い子かもしれないが、それでは青春としては面白くない。だから私は青春撲滅委員会を創設した」
「……意味がわからん。もっと噛み砕いて説明してくれ」
「人間とは不思議なものだ。やれと言われれば、やりたくなくなる。逆に禁止されれば、やりたくなる。それはね、きっと青春も同じことだ。私は、この学校の生徒に、もっと熱く青春を謳歌《おうか》してもらいたかった。だから私は青春撲滅委員会を結成し、青春的活動を禁止した。案の定、青春という言葉に冷めていた生徒たちは、自分の青春を守るために戦うようになった」
「じゃ、じゃあ青春撲滅委員会の本当の存在理由って……」
 俺は戸森の思惑の意味をようやく理解し、狼狽していた。
「いかにも。青春撲滅委員会は全校生徒の青春的活動を活発化するために存在している。一般生徒は自らの青春を守るために戦い、一方で委員会のメンバーは青春撲滅のために戦う。青春とはいわば何かと戦うことだ。自分のやりたいことのために奮闘する――青春とはそもそも、そういうものだろう?」
 目の前の生徒会長は人心を手玉にとる悪女だった。彼女は艶然と口の両端を釣り上げていた。
 この学校の生徒たちの青春は、当分は終わりそうになさそうだ。

【青春撲滅委員会】了

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