アルカナ・ナラティブ/最終話/01

 卒業式の翌日。
 俺と氷華梨は理事長室にいた。
 理事長の創木幻十郎に呼び出されていたのだ。
 職員室に呼び出されたことのない俺が、職員室も校長室もすっ飛ばして理事長室に強制召集とは人生何があるのか分からない。
「さて、君たちはとんでもないことをしてくれたね」
 理事長は俺たちに言ってくる。
「いやはやお恥ずかしい。まさか俺があんなに大胆な一手を打てる人間だとは思わなかった。何というか、自分で自分が分からない!」
 ここで委縮してしまってはかえって不利になる気がした。なので、快活に出ていくスタイルを取る。
「はあ……。そこまで開き直られると、私は君をどう処罰すべきか悩むよ」
「だろうな」
 俺はとりあえず肩を竦めておく。肩竦めすぎ問題に発展する気もするが、竦めたいものは竦めたいのだ。
「ところで……天野君は元気かね?」
「病院で検査したところ、病気は完治したみたいだぜ。悪性の腫瘍も綺麗さっぱり消えうせて、お医者さんもびっくりしてたそうだ」
 ある意味でご都合主義的な展開と言われそうだが、事実は事実なのでしょうがない。
「そうかね。彼に対しては素子が申し訳ないことをしたからね。安心したよ」
「ですか。ところで今さらな質問ですが、どうして天野先輩は治ったんだ? もっと言えば、一度しか使えないはずの七星の魔法が再使用できた理由が分からない」
「それについては私も奇跡が起きたとしか言いようがない」
「奇跡ねえ。その奇跡とアルカナ使いたちから【呪印】と魔法が消えてしまったことって関係あるのか?」
 俺は聞いてみた。
 そう、もはや俺も氷華梨も、それ以外のアルカナ使いたちも魔法は使えなくなっていた。【呪印】に関しても、灰色になったのではなく何事もなかったかのように消えうせていた。
「おそらくだが、みんなの天野君を助けたいという思いが奇跡を起こした。そして、その奇跡によりこれからこの学園で消費されるアルカナ使いのための全魔力が消費されたのだろう」
「奇跡の対価はみんなの魔法ってことですか。何事も同等の対価が必要ってことだな」
「だが、その奇跡のおかげで一人の生徒を助けられた、とも言える」
「アルカナ使いがいなくなったことを怒ってはないのか?」
「幾ばくかの口惜しさはあるがね。しかし、あれは元々、生徒を救えなかったことに対する後悔から生み出したものだ。これでよかったのかもしれんな」
「俺の母親のこと、まだ引きずってる?」
 無粋かもしれないが聞かずにはいられなかった。
「どうだろうな。もう昔の話だと言えばそうなってしまうだろう。それに……」
 理事長は俺を見て、えらく満足げに笑うのだ。
 彼は続ける。
「彼女の息子が、私の作ったシステムを打ち破ったというのは妙に運命じみている。ならば、魔法を扱うものとしてこれはこれで良しとすべきなのだろう」
 憑きものが落ちたみたいな理事長に、俺も少し安堵した。
「んじゃ、俺らに関してはお咎めなしでいいよな!」
 俺が綺麗にまとめようと手を打った。
 しかし、理事長は意地悪げに笑みを浮かべる。
「それとこれとは別物だよ。君らが卒業式の進行を妨害したのは事実。一応私も責任ある立場だからね、処分を下すように学校長には通達するさ」
「もしかして……退学とか?」
「いや、精々いって停学だよ。その代わり、アルカナ使いのことはこれ以上周りに吹聴しないでもらいたいな」
「あー、大人の汚い取引に応じろ、と?」
 俺は苦笑していた。
「君たちにとっても悪い話ではないと思うがね? 周りに根掘り葉掘り聞かれるのも厄介であろう?」
「確かにな。でも、聞いてくる奴は現れると思うぜ?」
「ふむ、そう言う場合は、それこそ記憶が曖昧だということで押し通してはいかがだろう」
「おいおい、責任ある立場にある大人が嘘をつけと子供を唆すかのかよ」
 案外、この人も悪人だよなあ。
「人はそうやって大人になっていくものさ。それとも嘘をつくのは嫌いかね?」
「触法少年にそれを聞くかよ。でも、まあ、その程度の嘘なら許されるのかなと思ってみたり」
 俺の処遇はどうでもいいとして、氷華梨には寛大な処置を施してほしいからね。
「氷華梨もそれでいいか?」
 一応、彼女の同意も必要である。
「もちろん!」
 はきはきと返事をしてくる氷華梨。
「妙に嬉しそうだけど、どうしたの?」
「どんな理由であれ、翔馬とまた想い出を重ねられるのはいいことだから。それに、共犯関係みたいで何だか嬉しい」
 うん、氷華梨さんも一年を通してかなり図太くなられましたわい。いやはや、カレシの俺としては彼女の尻に敷かれている未来が見えますぞ。
「では、私からの話は以上だ。あとは節度の範囲内で君たちの好きにしたまえ」

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