アルカナ・ナラティブ/最終話/02

 理事長室から出ると、俺たちは学校北庭に向かう。
 そこには天野先輩を含むメンタルヘルス部の人々、ヒノエ先輩、水橋先輩がいた。
「意外と早く話が終わったみたいだな。理事長、何だって?」
 天野先輩が言う。
「とりあえずは停学で済ませてくれるってさ」
「そっかそっか。そりゃあ寛大な処置なんだろうよ」
 天野先輩も満足そうだ。
 本日は三年生たちの卒業祝いの打ち上げである。
 こういうのは昨日行うべきだったのかもしれないが、卒業式での騒動の事後処理でどうしてもできなかった。
「あと、アルカナ使いだったみんなへのお知らせだ。やっぱり、俺たちはもうアルカナ使いじゃなくなって、魔法は使えないみたいだ」
 簡単に報告を済ませておく。
「そうかね。でも、それでいいのかもしれないね。元々、アルカナ使いにとって魔法なんて重荷の場合が多いわけだし」
 とヒノエ先輩。
「そう言えば、ヒノエ先輩の記憶ってどうなったの? アルカナ使いじゃなくなったときに【隠者】の魔法を使って蓄えた記憶も消えるんじゃないかって危惧してたけど」
「今のところ問題はないよ。元々そういう仕様だったのか、はたまた奇跡が起きたのかは知らないがね」
 ヒノエ先輩は気難しそうに答える。
 彼女は続ける。
「しかし、まあ、私は奇跡が起きたということにしておくよ。きっと私は篝火のことを忘れたくなかったのだろう。記憶が消えれば篝火のことも忘れてしまう。篝火を忘れまいとして、私は想い出を留めることができた。――そう考えた方がロマンがあるだろう?」
「ヒノエ先輩がロマンという言葉を口にするとはなあ。人間は変わるなあ」
 とか俺が茶化してみる。
「いやいや、翔馬さんや。こう見えてヒノエは中々に乙女ですし、俺と二人きりのときはそういったエピソードに尽きないんですわ」
 天野先輩がわざとらしく耳打ちをしてくる。
「か、篝火! そういうのは二人だけの秘密にしておいてくれ! お願いだから!」
 顔を真っ赤にして抗議するヒノエ先輩。
「えー、ヒノエ先輩の乙女ちっくエピソード聞きたいなあ」
 と言ったのは【女帝】のアルカナ使いだった三国先輩。
『ヒノエさんはもっと素直になるといいですよ』
 藤堂先輩はスマホの画面に文面を表示する。
 その様子を、俺を含む他のメンバーは愉快に眺めていた。
 俺は、そんな幸せの光景の中の一人だった。
「OK! 打ち上げの席でじっくり話しましょうぞ!」
 と言って、天野先輩は集団の先頭に立って使う予定の店へと歩き始める。
 改めて俺は思う。
 もはやアルカナ使いとしての【呪印】がない俺たちは、言ってみれば何も持たずに荒野を行く【愚者】なのだろう。
 これから先のことを何も知らず、型にはまることなく、ただ無限の可能性を信じ我が道を行く。
 何も持たない【愚者】として入学した俺たちは、アルカナ使いでなくなって再び【愚者】に戻ったのだ。
 無限の可能性というと聞こえはいいが、可能性は善にも悪にも変化しうる。
 でも、俺たちは【愚者】として道を歩むしかない。

【愚者】の行く道に、見通しが立つわけもなかった。
 正しい嘘のつき方も知らない、無知蒙昧で可能性の残り滓みたいな嘘つきの悪あがき。
 入学式にたった一人でやってきた俺は、式の後もたった一人で途方に暮れていたのを覚えている。
 あの日からはじまった高校生活で、どんな人々と出会うかは想像しようがなかった。
 ――でも、こんな俺でも沢山の仲間に出会えた。
 ――だから、これからもきっと大丈夫。

 俺は歩きだしたみんなの背を眺めながら、そんなこと考えていた。
 後方で突っ立ているばかりの俺に、氷華梨は振り返り言うのだ。
「どうしたの翔馬? さあ、行きましょう」
 氷華梨は蕩けるような笑顔だった。
 行きましょう。
 いきましょう。
 内心で、ちょっと駄洒落めかして俺は彼女に答えてみせた。
「もちろん――生きますとも」

【アルカナ・ナラティブ】了

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