アルカナ・ナラティブ/第2話/03

 ロッジに着いた生徒たちは、まず荷物を各自の部屋に置いた。そして、二十分ばかりの自由時間。
 休憩時間に何をするかは個性がでるところ。雑談に興じたり、ケータイを弄ったり、携帯ゲーム機で遊んだり――。
 尚、携帯ゲーム機の持ち込みは禁じられている。もっとも、それを知った上で全員スルー。注意や先生への密告は、空気を乱すこういとして仲間からはマイナス評価に繋がりかねない。
 マンガみたいな、真面目堅物な学級委員タイプはいない。そんなライフスタイルは今時流行らないのでありました。
 当たり前ながら男女は別室。女子は一階に陣取り、男子は二階に二つある大部屋にクラス別で入っている。
 女子の部屋がどうなっているかは詳細不明。
 しかし、緊急時の避難経路の描かれたロッジの見取り図からするに、一階には小さな部屋が十数個ある。おそらく、そこに班単位で振り分けられているのだ。
 所定の時間が近づいてくる。徐々に、男子メンバーは次の集合場所である大広間に移動し始める。
 俺も、同じ班の連中と予定時刻の五分前に移動を開始。
 時間になったら大広間で、先生方から、このキャンプの意義やら注意事項を伝達された。しつこいぐらいにくどくどと。
 そんなものしおりに書いてあるからざっくり省略して頂きたかった。
 それとも今時の若いモンは、その手の資料に目を通さないザルばかりだと、馬鹿にしておられるのだろうか?
 でも、休憩時間にしおりや避難経路を確認している人間って俺だけだったような……。
 うーむ、ここら辺が世間とのズレなのだろうか。
 先生の話が終わると、続いて三年生アシスタント方からのお話。中身はざっくりいって、高校生活を通して何をしてきたのかについて。
 失敗談や成功談、こうすれば高校生活が充実したものになるよ、という有難いお話だった。
 特に学年首席のヒノエ先輩からの話は鳥肌がたった。どうやったら学業成績が良くなるかという話だ。開いた口がふさがらなかった。
 ヒノエ先輩は、アルカナ使いとして魔法が使える。内容は『全ての情報を一切忘れない』こと。学業において努力もクソも必要ないチート魔法だ。ところが、先輩は、何も知らない一年生達に、
「努力すれば、しただけの成果が出るから、勉強は怠けてはいけないよ」
 と、のたまった。
 しかも、普段はプレゼンテーション能力がゼロなのに、立て板に水の演説ぶり。
 台本をシナリオライターから渡されて、暗記した内容を喋っただけの予定調和なのだろう。
 勉強より、努力より、そこら辺の大人具合が学校生活で大事なのだと学ばせて頂いた。
 もっとも、他の三年生はちゃんと自分の経験を、心から語っていた……と思いたい。でなければ、このキャンプはガチで茶番である。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 先輩たちの思い出話が終わったところで、本日の夕食。
 一日目の夕飯はバーベキュー。キャンプ参加者はジャージに着替えてバーベキュー場に集合。
 ブロックを組んでつくられた簡易的なかまどが用意されたバーベキュー場だった。
 太陽は山の稜線にまで傾き、林の中につくられたバーベキュー場は薄ぼんやりとしていた。もうすぐしたら、備え付けの照明がつけられるが、照明が必要なまでには暗くない。
 バーベキューでは班に分かれて、食材と火起こしの道具を与えられた。自分たちの夕食は自分たちで準備する。ちなみにメニューはシンプルに焼肉と焼きそば。
「どうしたもんかね、この状況」
 着火器具を持ったまま途方に暮れる俺。背中から、哀愁を漂わせている自信がある。
 班のメンバーは、全員見事に現代っ子。つまり、アウトドア料理の経験は皆無。
 火のつけ方がわからない。
 与えられた道具は、軍手、着火器具、着火剤、新聞紙、木炭、うちわ。
 俺とて最善は尽くした。着火器具で着火剤に点火、その周りに木炭をくべていった。結果、着火剤が燃え尽きる。のち、気まずい空気。
 道具が与えられたのに何もできない。知能検査において、紐に吊るされたバナナが取れない猿も同じ気持ちに違いない。
 人間は火を使うことによって文明を築き上げてきた動物である。火をつけられるかどうかは人間としての尊厳にもかかってくる気がせんでもない。なので、どうにかしたいところだ。
「ねえ翔馬、アンタ火つけれるんじゃないの?」
 班員で一番騒がしく、一番何もしない有馬という女子が喚き出す。
「そんなこと言ってねえよ。お前らが俺に押し付けたんだろうが」
「なにそれ、逆ギレ? 超ウザ~い」
 険悪なムードが漂う。
 そんな調子でしばし口論。気づけば俺VS班の女子という構図になっていた。
 女子は同性だからという理由で、有馬に付いたのだ。
 この班の男女比は男二人、女四人。
 もう一人の男子は外見からしてやせ気味、猫背で気が弱そう。内面もそれに対応して俺にも女子にも味方せず。かといって火起こしに挑戦するでもない中途半端が極まった態度。
 この班ハズレだな。最悪。
 無言の悪態。
 ひたすら、自分の不運を呪うしかない。
 他の班は、火起こしに成功しつつあるようで、中にはすでに肉を焼き始めている班も。
「やれやれ、最近の若い者は火起こしもできないのかね」
 老け込んだ台詞の主はヒノエ先輩。分裂した班のど真ん中に入ってくる。
 ジャージに軍手、頭にはタオルを巻いていた。
「先輩、その格好似合わないな」
 けなすつもりはなかったが、自然と率直な感想が喉元をせり上がる。
 普段の彼女は、制服に魔女みたいなマント。インドアの一つの完成形みたいな格好の印象が強い。この場では理にかなった姿なのに、違和感の塊だ。
「この恰好を似合うと言われたら、それはそれで乙女心が傷つくね。火が起こせていないのは残るところこの班だけとなってしまったよ」
「だって~、翔馬がヘタレなんだもん」
 と有馬。
「翔馬君の甲斐性を論じても、問題は解決しないよ。どれ、私に道具を貸してごらん」
 優しい口調だったが、ヒノエ先輩が火起こしというこの状況に一抹の不安を覚える。
 どう見立てても、この人はアウトドアなキャラではない。
 ヒノエ先輩は、着火剤と一緒に新聞紙を強くしぼったものと、数個の木炭と、着火剤をかまどにいれて点火。火が新聞紙に燃え移ると、テンポ良くうちわで送風。
 数分後、班のメンバーが挫折した大事業を成し遂げる。
 かまどの中には赤々とした炎。手をかざせば身体ではだけなく、心まで温まりそうだ。
「すご~い。先輩すごい! 翔馬ダメ過ぎ」
 有馬を筆頭としてはしゃぐ女子メンバー。
「人生経験の差だよ。君達も点けられなかったんだから、翔馬君だけを責めてはいけない」
 そこにいたのは、慈愛に満ちた一人の先輩。彼女の背後に後光が輝いていた。
 火さえ起こせば、後は食材を鉄板の上に乗せて、好きな焼き加減で食べていくだけ。
 食事は人間を丸くさせるらしい。いがみ合っていた俺と女子との間の空気も和やかになっていた。
 このまま、楽しい時間が過ぎていけば、それがベストだった。
 しかし、問題はまた別のところで生じる。

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