アルカナ・ナラティブ/第3話/05

「ところで、三国先輩はどうしてハナエの嘘に気づいたんだ?」
 話題転換の意味も兼ねて俺は三国先輩に質問。
「『妊娠したけど堕ろしたい。そのためにはお金がいる』って言ってた割には、幸福度が減ってなかったからだよ」
 簡潔な説明は恐れ入るが、疑問が残る説明だ。
「幸福度なんてどうやれば分かるんだ? 表情とか?」
 だとしても変だ。
 カンパ金をだまし取るつもりで、話を切り出したなら、そういう外面には気を払うもの。
 いや待てよ、この人もれっきとしたアルカナ使いだったな。だったら――
「あたしの持ってる魔法だよ。魔法の名前は【トゥインクル】――相手の幸福度がわかるの」
「なるほどな。……でも、『幸福度がわかる』って、魔法なのか?」
「あー、今『ショボい魔法』とか思ってるでしょ?」
「すまない」
 嘘を排したい俺は、謝るしかなかった。もうちょっと上手く立ちまわれないものだろうかと反省。
「別に良いんだけどね。ショボいのは事実だから。幸福度を測る――これって魔法がなくてもできちゃうことなんだ」
「間違いないな」
「でも、反論しちゃうとね、やっぱりあたしの【トゥインクル】は魔法だよ。だって、あたしの場合は、相手を見ただけで分かってしまうもの。例えば、何か事件が起きて現場にあった遺留品って、今の時代なら科学捜査で色々調べられるよね。でも、科学も技術も無視して、遺留品が誰のものかとか、どういう経緯でそこにあるかが分かったら、それは神掛かった力――魔法でしょ。つまりはそういうこと」
 分かりやすい例えを交えてくれる三国先輩。
「見ただけで分かるってことは、ここにいる全員分も把握できるのか?」
「うん。あたしの魔法って相手を見ただけで自動的に発動しちゃうタイプだから、最初からみんなの幸福度は分かってた」
「へえ、ちなみに俺のはどれぐらいなんだ? ぜひ教えて欲しいな」
 俺が言い出すと、周防も「私も知りたいです」と手を挙げた。
「おお、流石思春期の若者だね。やっぱ自分の心理状態って気になるものなんだ。いいよ、教えてあげる。翔馬君が『39/40』で、氷華梨ちゃんが『30/60』だよ。ちなみに分子が今のあなたたちの幸福度。だから、あたしの魔法尺度では翔馬君の方が幸福度は高いって話だね」
 分数形式で算出される能力だったんだ……。
 幸福度なんて、曖昧なものをちゃんとした数値で出されるのは不思議な気分だ。
 ところで――
「どうして、俺と周防で分母の数が違うんだ? あと、周防の『30/60』は約分した方が分かりやすいぞ?」
 気になった二点を聞いてみた。
「分母にも、ちゃんと意味があるからだよ。変に数学的操作を加えると、君たちの心理状態を正確に表現できないから」
「意味のある数字?」
「そうだよ。というより、さっきから不思議だったんだけど、君たちは『アルカナ使い研究書』を読んでないの?」
「初耳だな。何だそれ?」
「今まで存在した、アルカナ使いの名前や魔法について書かれた調査資料だよ。代々魔法研究部が作成・管理してるから、てっきり目を通してるものかと思ったよ」
 そんな話、一度たりとも聞いていない。
 ヒノエ先輩に視線を投げた。気まずそうに、俺から視線を外しやがった。
「い、いや、別に君たちに存在を言うのが面倒だったわけではないぞ。あえて、存在を公表していなかったのだ。アルカナ使い達に会う前に、変な偏見を植え付けるのはいかがかと思ってね」
 ヒノエ先輩、嘘じゃないなら目を合わせて説明すべきだ。
 そんなうっかりものの【隠者】に対し、【女教皇】は、
「ダウト」
 と宣言。
 ……まさかの決め台詞。本当に使ってしまうか、周防よ。
 恥ずかしくない、それ?
 周防が愉快な先輩たちに毒されていく。しかし、『ダウト』の言いだしっぺは俺。なので先輩を批判できない。
 誠に遺憾だ。
「……『アルカナ使い研究書』はパソコンデスクの一番下の引き出しに入っている」
 こほんと、咳払いしてヒノエ先輩は言い訳を垂れ始める。
「だったら、後で見せて貰うぞ」
「構わんよ。どんなアルカナ使いがいるのか予習しておくのは良い事だ」
 さっきとは真反対な内容を、朗々と語るヒノエ先輩。流石、年長者は図太いぜ。
 しかし、これに異を唱えたのは三国先輩。
「ちょっと待って。せっかくあたしの魔法の詳細を知らないんだったら、もう少し読むのを控えてもらいたいな」
「どうしてだ?」
 知られたらまずい内容でも載っているのだろうか。
 いや、だったらそもそも記載されないように、最初から隠匿しているのが普通か。
「もうちょっと、あたしの魔法についてはもったいぶってみようかなと思ってね」
「?」
「つまりね、君たちが分母の数字の意味を予想してみるの。あれこれ考えてみて、これだと思ったらメールで回答」
「へえ、面白そうだな」
「期間は三日。当たったら、五百円相当の食券を贈呈。こういうのでどう?」
「よっしゃ、絶対に当ててやる。覚悟しておけよ」
 高々五百円といえど、ゲームには手を抜かないのが俺の主義。
「氷華梨ちゃんはどうかな?」
「構いませんよ。……私たちに何か害を及ぼすつもりでなければ」
「む、警戒心が強いね。でも安心してよ。私は直接、あなたたちにどうこうするつもりはないの。むしろ、これを機会に『幸せの有り方』について、ちょっと考えてみて欲しいんだ」
「……わかりました。でも、『幸せの有り方』って一体?」
 周防が頷くのは、三国先輩の言葉が嘘ではない証拠。
「ヒ・ミ・ツ。むしろ、それがあたしが出したクイズの答えなんだから。でも一応、ヒント代わりの忠告だけしておくと……」
 ここで三国先輩は、視線を俺へ向ける。
 そして、にこりと笑う。しかし、その笑顔には若干の陰りがあるように思われた
「気をつけてね。現状の幸福度からすると、氷華梨ちゃんより翔馬君の方が激ヤバだから」

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