アルカナ・ナラティブ/第10話/05

 謎の占い師・ベネと遭遇して二日後の土曜日。
 俺は高校の最寄駅から徒歩で行ける距離にあるボウリング場に馳せ参じていた。理由は、クラスメイトと期末試験のお疲れ会を執り行うためだ。
 参加希望者の調査、会場への電話予約、参加者への日時の連絡などは幹事である俺の仕事だ。
 正直言ってかなりの手間だった。
 特に、参加者への連絡がとんでもない曲者だった。ちゃんとメールの文面に明記したことをわざわざ問合わせてくる奴も散見したからだ。
 とはいえ、そんな奴であっても無視するわけにもいかないので、俺はコールセンター並の丁寧さで対応。途中からアウトソーシングしたい気分にすらなっていた。自分の忍耐力に全力で拍手を送りたい。
 集合時刻の午後二時が近づくにつれ、会場前には参加者が集まる。
 一番に到着していたのは俺である。約束の三十分前には到着していた。普段なら、もうちょっとのんびりしていたが、幹事である以上は早めに会場に来ておいた良いであろうと判断した。
 ちなみに本日は氷華梨も参加するが、彼女には自分のペースで来るように通達済。まさか、俺と一緒に三十分前行動を取らせるわけにもいくまい。
 さらに今日は、うちのクラス以外からのゲストも招いている。
「ボウリングのストライクとかけましてドラえもんととく。その心は?」
 七月の日差しが照りつける中、テンション高く謎かけが出題される。
 出題者は本日のクラス外参加者の一人、天野先輩だった。
「篝火、来ていきなり意味不明なことを言い出すな。みんな困惑している」
 天野の隣には、暑苦しい黒マントを羽織った女子がいた。当然にヒノエ先輩である。むしろ、そんなカッ飛んだ出で立ちの人間がヒノエ先輩以外にいてたまるか。
「だってほら、集合時刻までにちょいと時間があるからみんなに謎という名のエンターテインメントを提供しようかと」
 天野先輩はてへぺろと笑ってみせるが、あいにく萌え要素はない。
「お前はサービス精神旺盛なのが取り柄なのに、脈絡がないのが欠点だな」
 眉間にシワを寄せてみせるがヒノエ先輩だが、口元はほころんでいた。素直ではないが、付き合い始めて少しは天野先輩への態度が寛大になったようだった。
「仲良しそうで何よりだ」
 二人の様子を眺めながら、俺も微笑んでいた。
 天野先輩の言によれば、彼は命に関わる重病を抱えているらしい。にもかかわらず、ヒノエ先輩といると元気で陽気。まるで、病人であることが嘘みたいだ。
 いや、嘘だったらいいのに。
 彼にはこの先もずっとヒノエ先輩と幸せに過ごして欲しい。
 そう考えると、途端に切ない気持ちがせり上がってくる。
 ちなみに、天野先輩の病気のことは他のクラスメイトは知らない。天野先輩からはみだりに吹聴しないように言われている。
「おいおい幹事殿、表情が暗いぜ?」
 天野先輩は快活に笑う。
 俺としては、全力で平穏を装っていたのに、この人はそれすら看破していた。
「ああ悪い……ちょっと考え事をしてた」
「そっか……。まあ、人生どうしょうもないこともある。前向きにいこうぜ」
 そう言うと、天野先輩はぽんぽんと俺の頭に手を置いてくる。
「子ども扱いするなよ」
 俺は憮然としてみせるが、悪い気分ではなかったりする。年上に可愛がられるというのも存外悪くない。
 天野先輩は、不敵な笑みを返すのみ。
 しばらくしてから、この場に集まった天野先輩は言う。
「三分間待ってみた! 時間だ、謎かけの答えを聞こう!」
 微妙に某ラピュタ王じみた台詞だな。
 いっそみんなでバルスとか言ってみたかったが、やめておいた。その言葉は禁断の呪文なのだ。天空の城を崩壊させ、大佐の目を焼き、さらには大手掲示板サイトのサーバをダウンさせかねない。
「ボウリングのストライクとかけましてドラえもんととく。その心は? ――どちらもポケットが大事」
 俺が回答すると、他の連中から「おおっ!」と声が上がる。
「大正解! よくぞ我が問いに答えた。ならば、我はお前に道を譲らねばならんな」
 天野は厳かに言うけど、ゴメン、どういう状況設定で問題を出したつもりなのかが謎だ。
 とはいえ、上から目線で言われるとそれをちょっとひっくり返してみたくなる。
 だから、俺はこんなことも付け加える。
「ちなみにストライクもドラえもんも、最初のポケットがダメでもスペアがあるぜ?」
 それを聞いた天野先輩は、
「その発想はなかった……。もしもこの世界がワギャンランドなら、オレはワギャコプターを贈呈していたに違いない」
「何そのタケコプターみたいなアイテム?」
 元ネタに触れたことがないので深い言及は避けるが、きっと空が飛べるアイテムに違いない。
 益体なく時間は過ぎていく。
 午後二時になる頃には氷華梨も到着。ただし、時間になっても到着しないルーズな奴は残念ながらいるもので、俺は一応電話連絡で先に店に入っている旨だけ伝えておく。
「んじゃ、時間だし中に入りますかね」
 現状で集まったメンバーに俺は通達。
 そのときに気づいた。
 みんなの様子が少しよそよそしい気が……?
「どうかしたのか?」
 特定の誰かというよりは、その場のみんなに問いを投げる。
 それに対して、みんなは顔を見合わせたり、首を振ったりと何かを秘密にしている様子だ。
「おいおい、どうせ隠し事をするならもっと上手くやってくれよ」
 ちなみに、この場の微妙な空気の原因に首を傾げているのは俺だけではない。ヒノエ先輩と天野先輩も心当たりがなさそうだった。
 しばらくの沈黙の末、クラスメイトの有馬紅華が口を開く。
「そうね。この際だからはっきりさせておきましょうか。実はね翔馬、クラスの間で……というかうちの学年であなたに関する変な噂が流れ始めているのよ」
「……一体どんなだよ?」
 ゴクリと生唾を飲み込む。みんなの神妙な空気にすっかり飲み込まれていた。
 嫌な予感が俺の背筋を凍らせる。
 そして、その嫌な予感は正解だった。
 有馬は言うのだ。

「端的に聞くけど、翔馬は元詐欺師だったなんて過去はないわよね?」

 その質問の意味が理解できずに、俺は目をしばたかせる。
 呆ける俺に対して、有馬は更に告げる。
「出所ははっきりしてないんだけど『瀬田翔馬は昔、投資詐欺で逮捕されたことがある』とか情報が流れているのよ。みんな、そのことが気になっているんだと思うの」
 有馬の言葉に、他のクラスメイトはそれぞれ頷く。
「翔馬……」
 弱々しい声を絞り出しながら、氷華梨は俺を見つめてくる。
「ちなみに周防さんにもそのことについての情報は届いているわ。かくいう私も、何か知らないか聞いた一人よ。まあ、周防さんからはっきりした回答は得られなかったけどね」
 俺の指先から血の気と体温が失せていく。
「この場ではっきりさせておきましょう、翔馬。今現在学年で流れている変な噂は、根も葉もない噂……なのよね?」

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