アルカナ・ナラティブ/第11話/02

「どうして久留和がここにいるんだ?」
 目を白黒させながら仰天するしかない俺。
「そんなもの、アタシもアルバイトに参加するからに決まっていますわ」
 憮然としながら久留和が答える。
「アルバイトって、お前、占いの館は?」
 彼女は学校近くの占いの館でアルバイトをしていたはず。しかも、噂では一、二を争うほどの人気の占い師だと聞いている。
 そんな彼女が、どうしてわざわざ海の家のスタッフをしにきたのか理解できない。
「アタシだって、占い師を続けたかったですわ。でも……ちょっと事情がありまして」
「なんだよ、その事情って。まさか、また俺を破滅させようと画策しているのか?」
「それも面白そうですわね。そうですわね。そうかもしれませんわね」
 艶然と微笑む久留和に俺は身構える。
 ところが、これに水橋先輩が、
「別に久留和さんは翔馬に敵意があってこのバイトに参加したわけではない。単に占い師のバイトをクビになっただけだよ」
 と言った。
「はい?」
 意味が飲み込めずに、俺は間の抜けた声を上げた。
「つまりさ、彼女はお前が元詐欺師だったっていう情報を、個人的な恨みを晴らすために不特定多数の人間に拡散したわけだろ? これは客の個人情報を漏洩したことに他ならない。こんなこと、店側にバレたら当然クビになる」
 彼の説明に、俺はようやく腑に落ちた。
 水橋先輩の言葉に、久留和は顔を真っ赤にさせていた。
「そうですわよ! その通りですわ! アタシはクビになったから、わざわざこんなところに来ることになったんですの! これはぜーんぶ、あなたのせいですわ、瀬田翔馬!」
 激昂する久留和。
「お怒りのところ悪いが、お前の自業自得だろうが。八つ当たりも甚だしいぜ」
 感情的な久留和に対して、あくまで理性的に返していく。
「おいおい、これから二日間一緒に働く仲間なんだから仲良くしてくれよ。いや、仲良しごっこができないとしても、揉め事は起こしてくれるな」
 ため息混じりの水橋先輩。
 険悪なムードが漂う中、俺たちはバイト先となる海の上に移動する。
 到着した海の家は、海岸沿いに建てられたログハウス風の家だった。
 海の家というからには、もっと簡素な作りの庶民的な店を想像していたが、中々趣のある店である。
 店名も【シー・フルール】という横文字。
「やあ、君たちが理音君の言っていた残りのバイトだね。僕はこの店のオーナーの桑原秀征《くわばら・ひでゆき》。今日から二日間、よろしく頼むよ」
 店の外で、髪を金色に染めた中年男性が出迎えてくれた。男性の肌は浅黒く、引き締まった体躯をしている。見るからにマリンスポーツをしているような出で立ちだ。
「ご無沙汰しています、秀征伯父さん」
 水橋先輩が桑原氏に頭を下げると、俺たちもそれに従う。
「うむ、礼儀正しいのはいいことだ。キズナちゃんもますます美人になったねえ。去年からちょっと背が伸びた?」
 桑原氏の質問に、藤堂先輩が目を輝かせながらスマホに文字を打ち込む。
『はい、前年比で三センチアップです。現在、一四五センチ! 私はまだまだ成長しますよ』
 キズナ先輩の言葉は夢と希望に満ちているが、それは難しい。現在彼女は高校三年生。そろそろ成長はストップするお年頃。
 残念ながら、彼女の身長は……。
 ということは場が荒れるので口にはしない。わざわざ空気を乱すのはよくない。
「このおチビさんは何を言っているのかしら? 高三にもなって身長が大幅にアップするわけがないじゃありませんの」
 ……穏便に済ませようとしていたのは俺だけ。
 久留和は違った。明らかに相手を嘲るような言い回し。
 しかもキズナ先輩の耳が聞こえないのをいいことに背後から言うのだ。
 卑怯というか陰険というか。
 当然ながらキズナ先輩は久留和の嫌味に気づかないが、そのカレシであられる水橋先輩の耳には届いているわけで。
 この人、自分への悪口は我慢できても、キズナ先輩へのものに対しては怒るタイプな気がする。
 久留和は女子だから、手を上げることはないだろうけど、きつい叱責を受けそうだな。
 かと思ったが、水橋先輩は一瞬だけ久留和に鋭い視線を送っただけ。それ以上の咎めはなかった。
 ……そりゃそうか。いくら水橋先輩でもところ構わずキレるわけがない。
「とりあえず、こんなところで立ち話も何だから中に入ってよ。これからの話はそこでしよう」
 桑原氏が店の扉を開けてくれる。俺たちは続々と店の中に入っていく。
「おー、やっと来ましたか先輩方とプラスアルファ」
 店内には既にエプロン姿のスタッフと思しき少女がいた。気さくな挨拶は元気いっぱいで、第一印象からして絡みやすそうな印象を受けた。
 気になる点があるとすれば、顔の右半分と右腕にかけての火傷痕。それでいて顔の左半分は眉目秀麗であるため、妖しい魅力すら感じた。
「んー、なに? そんなにアタイのこれが気になる?」
 少女は口元を歪めながら聞いてくる。
「えっと、その……」
 火傷の件に触れてもいいのか迷った俺は、言いよどむしかない。
「気にすんなって、少年。そりゃ、こんだけ派手に肌が焼けてりゃ気にもなる。変に気を使う方がアタイに対しちゃ失礼ってもんだ」
「そうなのか?」
「そうそう。あ、自己紹介が遅れたな。アタイは四塩虎子《ししお・とらこ》っていうんだ。キズナ先輩とおんなじ学校の二年生さ」
 あくまで快活に、四塩虎子という少女は接してくる。
「俺は瀬田翔馬。水橋先輩や藤堂先輩と同じ学校の一年生だ。つまり、四塩先輩の後輩ってことになるな」
「瀬田翔馬ね……はいはい、覚えた。ていうか、瀬田翔馬って名前どっかで聞いたな。……あー、思い出した。例の詐欺師少年か。もうちょっと陰湿そうなのを想像してたけど、そのゲゲゲの鬼太郎みたいな髪型さえなければ普通の爽やかイケメンじゃん。ていうかその髪、ウザイから切れば?」
 俺が詐欺師という噂を知りながらも、四塩先輩は臆さずに近づいてくる。あまつさえ、俺の前髪を無断で掻き上げてくる始末。
 そこには当然アルカナ使いとしての証である【呪印】があるわけで。
「研究書にあった情報に違わず、あんたが【魔術師】なわけね」
「そういう四塩先輩の名前も研究書で見かけたよ。確か対応しているアルカナは【死神】だったか?」
 俺が聞くと、四塩先輩は然りと頷く。
「おー、えらいえらい。事前の情報収集ってのは大事だよな。アタイの【呪印】は、ほれ、ここに」
 四塩先輩はエプロンと、その下に来ていたTシャツをめくる。右の横腹には【XIII】の文字があった。
【死神】を意味する【XIII】の刻印。これ、漫画とかだったら相当に強いキャラ設定だ。
「おいおい、君たち、さっきから何の話をしてるんだ?」
 アルカナ使いたちの話においてけぼりをくらっているのは桑原氏。
「ちょっとたわいもない話をしてただけですよ」
 四塩先輩はごまかしを入れる。
 その横で俺は水橋先輩にこっそりと確認する。
「桑原氏はアルカナ使いについてご存知ない?」
 以前、水橋先輩の家では魔法研究を行っていると聞いたことがある。そのため、その親戚である桑原氏も魔法に関して明るいのかと思っていた。
「伯父さんは真っ当な一般人だ。というわけで、魔法もアルカナ使いのことも知らない」
 耳打ちで返してくる水橋先輩。
 そうだったのか。これはちょっと軽率な会話をしてしまったかな。
「まあ、よくわからないけど、学生さん同士にしか通じない話はあるだろうからね。僕は深くは突っ込まないよ。ただし、仕事中の私語は控えること」
 物分りのいい人で助かった。これぐらい寛大な態度を取れる人でなければ客商売なんてできないのだろうな。

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