アルカナ・ナラティブ/第14話/08

 勢いで注目を集めてはみたものの語る内容はノープラン。洒脱な小噺ができるわけでなし、すべらない話を持っているわけでもない。
 話芸に自信がない以上、心で思ったままを紡いでいくしかない。
「いいかお前ら、俺は……俺はお前らと最高の想い出をつくりたい!」
 突然の臭い台詞に、みんながポカーンとしていた。俺だって自分で言ってて恥ずかしい。ついでに自分がこれからどんな戯言を抜かすのか自分で知りたい。
「まさかの熱血モノ?」
 熊沢の一言に、俺は顔から火が出る思いだった。
「そうだ、その通りだ! 文句あっか!? 俺だって本当は学校から押し付けられた企画なんてやりたくない! お前らだってそうなんだろう?」
 氷華梨がみんなの『人任せでいい』って意見を嘘だと見破った段階で確定事項。みんなは氷華梨の魔法は知らないはずだが俺一人が知っていれば問題ない。
『みんなも押し付け企画は嫌』という事実を起点に、場の空気をどうにかやりくりすればいい。
 誰ひとりとして反論してこない。心にやましい部分があるのだろう。
 みんなの沈黙がみんなの回答だ。
 ここで一気に畳み掛けてしまえ。
「いきなり洗練された企画を出せなんて言わない。俺はみんなが何をしたいのかを知りたいんだ。思いつきでも、わがままでも、バカ話でも何を言っても構わない。どんな結論でもいいから俺たちの企画をつくろう。そのためなら、どんなことでもしてやるよ!」
 さーて、言っちまったぞ、と。
 どんなことでもするなんて言えるのは、後先考えない間抜けか最悪の詐欺師くらいだ。俺としては詐欺師に戻るわけにはいかない。なので俺は滑稽なまでに間抜けなんだろう。
「例えば……よくあるのはナントカカフェみたいなカンジだよね。メイドカフェとか執事カフェとか」
「あー、漫画とかだとよくあるよな」
「メイドや執事だと衣装作るの大変じゃない?」
 少しずつ、みんなから建設的な意見を出始める。
「喫茶店か……。学園祭であちこち移動した人が足を止める場所としてはアリだな」
 出てきた意見をつなぎとめておくため、ひとまず前向きなレスポンスをしておく。
 ついでに黒板には『××カフェ』とか書いてみる。
「その書き方だと、まるで大喜利みたいだぜ?」
 熊沢が言うとクラス中で笑い声が上がる。
「似たようなものさ。『こんな喫茶店があったら足を止めずにはいられない』ってのがお題だ。思いついた奴は恐れることなく言ってみろッ!」
 面白い回答が出ても座布団が出せないのが残念だけどな。
「クラス女子が一丸となって接客するJKカフェ!」
「クラス企画がいきなりあぶない店っぽくなった!?」
 いきなりぶっ込まれて不可思議なツッコミを入れてしまう俺。
 だけどこれがよかった。みんな緊張がほぐれたのかとりあえず雪崩のように回答を挙げていく。
「猫カフェ」
 なるほど、お猫様の癒し効果を狙うわけか。
「俺、どっちかっていうと犬派だから犬カフェ!」
「なら猿カフェ!」
「それなら鳥カフェも入れておこう」
「だったらまとめて桃太郎カフェ!」
 うむ、連携の取れた答え。それやるとしたら鬼も必要かしら。……鬼ってどこで調達すればいいんだろうか。
「うーん、どうせならもっとこのクラスの特徴を盛り込みたいよね」
 女子の一人からの意見にみんなが頷く。
「確かに! そっちの方が他のクラスとの差別化ができそうだ」
「一年五組の特徴ってなんだ?」
「とりあえず……学級長がリア充ってことか?」
「クソッ、これだからリア充は……!」
「駆逐してやる! リア充なんて駆逐してやる!」
 いきなりルサンチマンが噴出。さりとてこの手の嫉妬にも慣れてきた。
「ならば来い! 我がリア力にひれ伏すがいい!」
 どっかのRPGみたいな威圧感たっぷりな声で言ってみた。
「ぐはっ……これが余裕のある奴の貫禄か……」
「衛生兵……衛生兵!」
「俺氏の冒険はここで終わってしまった」
 クラスの男どもは混乱している。勇者たちがチョロすぎる。
「いいだろう、むしろこのクラス最大の特徴は翔馬だと認めよう」
「あー、でもそれはアリかも。ある意味で学校一の有名人だし」
 とかなんとか。
「翔馬を使って個性を出すって、つまり……」
 口にしながら続きを言いよどむ女子生徒の姿。
「言いにくいのはわかるけど、別に俺は構わんよ」
 何でも言っていいと発言したのは俺だしね。
「翔馬と言ったら……詐欺?」
 その言葉にみんなが「ですよね~」とかリアクション。
「でもカフェと詐欺の組み合わせって……。振り込めカフェとか?」
 ダイナミック不謹慎だが、俺本人のツボだった。
「足を止めてみたくはなるし、俺が振り込めカフェにいたら話題になる」
 ネットでの炎上という意味の話題だけど。炎上マーケティングここに極めり。
「振り込めカフェだとやりすぎじゃない? せめて騙し合いカフェとかどう?」
「マイルドになったけどゴロが悪い」
「はいは~い、なら嘘つきカフェってのは?」
「意外といいんじゃね、嘘つきカフェ」
「面白そう。でもカフェで嘘つくって何?」
 次々と意見が出てきて、妙な方向にまとまりはじめる。とはいえ、ここで方向修正はしない方がいい気がする。
「例えばぼったくりとかは……流石にマズイか」
「犯罪はちょっとねえ。ならゲーム形式で騙し合いをするってのは?」
「それってTRPGみたいな感じ?」
「TRPGって何?」
「アナログでやるロールプレイングゲームだよ。参加者がゲームのプレイヤーになりきって冒険や探索とかするんだ。まあ、知らない人にとってはかなりマニアックなたしなみかもね」
「なんとなくだけど、それなら嘘つきカフェってマジでいけるんじゃね?」
 こういうときは思いつきの瞬発力が頼りになる。
 しかも場の空気が勝手に好循環している。
 これはここで決着をつけた方が賢いな。
「だったら、うちのクラスは『嘘つきカフェ』でいきたいな。何か異論のある奴はすまないが挙手を」
 クラス全員の合意という形にしたいので、確認を取っておく。
 手を挙げる者はいない。
 もしかしたら、少なからず反対意見を持っている奴がいるかもしれない。でも出てこない意見を拾うのは難しい。
 表向きは反対ゼロなので、これで話を進めよう。注文やクレームがあったら手間ではあるがその都度誠意をもって対処する。
 次にやることは『嘘つきカフェ』を企画概要書に落とし込む作業だ。
 ……とはいえこの挑発的なネーミング、学校側は嫌がるだろうなあ。

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