アルカナ・ナラティブ/第15話/09

「ねえ翔馬、あなたのご両親ってどんな人たちだった?」
 有馬と問いかけ。
 質問自体に即死効果は付加されていないが、死の宣告っぽいのは否めない。
「一言で表せば最低な連中だよ。自分の子どもを詐欺犯罪に利用したり、教育と称して体罰を加えたり」
「あら、奇遇ね! 私の親……特に父親がそうだったの!」
「へえ……お互い親には苦労するよな」
 これ以上踏み込むと、引き戻せない臭いがしたので回避を試みる。
 ……まあ、ボスバトルからは逃げられないのが当たり前の仕様なんだけど。
「だって借金のカタに実の娘を売ったんですもの。信じられる?」
 うわー、この人もアルカナ使い特有のド重い過去持ちですか。そうですか、アルカナ使いならそうなりますわな。
「それはまた……結構なお点前で」
 ここまで聞いてしまったら、中途半端に終わらすのは逆に危険。
 いいでしょう、魔界の果てまで踏み込んでみせましょうとも。
「父親がギャンブル中毒でね。借金で首が回らなくなって、債権者に私を差し出すことでチャラにしようとしたの」
「でも、お前はこうして高校に通っている。なら、どうにか切り抜けたんだよな?」
 というかそうであってくれ。債権者のいいように弄ばれたとかは聞きたくない。
「勿論! 私ね、助かったの! 自分の力で勝ちを掴んだの!」
「何かの勝負を切り抜かたみたいな言い回しだな」
「私が抵当に入る前に、債権者がラストチャンスをくれたのよ。カードゲームで勝ったら助けてやるって」
 カードゲームとは言うが、本当は違法賭博だったんだろうな。
「随分と良心的な話……とはいかないんだろうな」
「私が負けたら海外の変態に転売する運びだった」
「その勝負に有馬は勝った、と?」
「そうでなければ、今頃は海外で廃人になってたでしょうね」
「人生を賭けたゲームに勝ったご感想は?」
 軽口を叩くみたいに聞くしか俺にはできない。下手したら、彼女の過去は俺よりも重い。重すぎて、俺では消化しきれない。
「勝負にどうやって勝ったかは思い出せないの。とにかく必死にやったら、偶然に偶然が重なって切り抜けたみたいなカンジ」
「そんな辛い想い出があるのに、賭けに関する魔法かよ」
 つくづくアルカナ使いの魔法は忌々しいものだ。
 ところ有馬はきょとんとしていた。
「あら、私は勝ったのよ? それの何が辛いのかしら?」
 軽快な口調の有馬。
 でも、目が濁っていた。
 彼女は続ける。
「私は勝った! 私は賭けに勝った! だから私はここにいる! だから、あれは楽しい想い出なのよ」
 痛々しい笑顔が膿のように吹き出した。そして、彼女は大仰に天を仰ぐ。
「おい、落ち着け!」
 俺は言うけど、彼女はすでに手遅れだった。
「私はこれからも賭けに勝つ。勝って、勝って、勝って、負けたやつを踏み潰して、それから、それから……ウガッッッ」
 そこまで言って、有馬の顔が苦悶に歪む。
 一転して頭を抱えてうずくまる。
「おい、大丈夫か?」
 俺は駆け寄るが彼女は聞いていない。
「私は断罪する。そうだ、そうだ、断罪しなければならない!」
 脈絡のない言葉が飛び出してくる。
 断罪――まるで【コンヴィクト】の使い手だった名壁を彷彿とさせる。
 有馬の混乱はなおも続く。
「男の人、怖い。嘘をつかれるの、怖い。嫌だ、嫌だ、誰も私に近づかないで……!」
 今度は泣き出しそうな声で叫びだす。出会って間もない頃の氷華梨みたいな怯え方だ。
 有馬の豹変に、俺では対処しきれない。
 隣の氷華梨も呆然としていた。
 どうすることもできないまま、俺たちは立ち尽くす。
 しばらくすると、有馬は正気を取り戻す。
「なにこれ……ウエッ……気持ち悪い」
 えづきながら立ち上がる。
 俺はとある可能性に気づく。
「もしかして……魔法を奪った副作用?」
 荒唐無稽な考えだったが、魔法に常識は通じない。
「馬鹿な……そんなことはない……私は賭けに勝って、断罪して、あらゆる嘘から自分の身を守るのよ!」
 有馬の支離滅裂さに、俺は目眩を覚えた。
「有馬、今すぐ奪った魔法を捨てるんだ。お前は賭けに負ければ魔法を失うんだろう? だったら……今この場で俺と勝負してわざと負けろ!」
 そこまで言ってふと気づく。その結果、嘘を見抜く魔法が氷華梨に返却されるかもしれない。
 彼女はそれをよしとするだろうか。
 氷華梨に視線を向けた。
 彼女は強く頷いて、有馬に言う。
「有馬さんが私から奪った魔法は、私が背負うべき苦しみなの。だから――返して」
 諦めに満ちた、それでも優しい微笑みの氷華梨。
「黙れ! 誰がせっかくの戦利品を手放すものかよ! 私はこれからも勝ち続けるんだ! だから嘘がわかる魔法も手放すものか!」
「駄目……返して」
 氷華梨は困ったように有馬の手を自分の両手で包み込む。
「ははは……なによ、これじゃ私が悪者みたいじゃない。だったら……ええ、勝負してやろうじゃないの! ただし、行うゲームはこちらで指定する! それ以外の勝負は認めない!」
 叫ぶ有馬には俺は気圧されるしかない。
 一方で氷華梨は毅然と立ち向かう。
「聞かせて、有馬さんはどんな勝負をしたいの?」
「うちのクラスで作ったTRPGゲームあるでしょう? あれで私は【悪魔】をやる。それで私を倒しなさいよ! そうしたら負けと認めてあげるわ」
 無茶苦茶な要求だった。
 あのゲームはトランプのダウトを元に作り上げた代物だ。必然、嘘が見抜ける有馬に勝つことは不可能に等しい。
 とはいえ、魔法の副作用が出始めていると思しき有馬を放置もできない。
「……そもそもあのゲームはプレイヤー側に三人必要だ。人選も必要だから放課後まで考えさせてくれ」
 もっともらしいことを言って時間稼ぎを試みる。
「いいでしょうとも! どうせなら、便利な魔法を持ったアルカナ使いから勝ちをむしり取りたいわ。それじゃあ、放課後を楽しみにしているわ」
【悪魔】は俺たちの元から去っていく。
 クラスメイトである彼女とは午後の授業も同じ教室で過ごす。まるで地獄みたいだな、と思った。

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