アルカナ・ナラティブ/第15話/10

 昼休みが明けた五限目にメールでアルカナ使いの愉快な仲間たちに連絡。六限目をサボって、有馬との対決のために知恵を貸してもらえるように頼んだ。
 授業を抜けてくるなんて大それた話を無理に受け入れろとは言えない。可能な者だけ魔法研究部に集合してほしいと伝えた。
「さーて、これから現場で起きる事件のために会議室でも事件を起こそうぜ」
 六限目。言いだしっぺの俺と周防が部室を訪れると、すでに北出先輩の姿があった。
「来てくれて嬉しいけど……どうやって部室に入った?」
 魔法研究部に所属していない北出先輩が扉の鍵を持っているとは考え難い。
「扉が開かなければ自分の力で切り開いていけばいい。人生を楽しむ秘訣だ」
 北出先輩は指先で針金を弄んでいた。
「格好良く言ってみても要はピッキングだよな、それ」
「物騒な世の中なのに、針金でどうにかできる鍵の存在に俺はビックリ仰天だったよ」
 とかやっていると後ろから、
「ヒノエ、この部室のセキュリティの脆弱性が明らかになってるぜ?」
「実は前から気づいてはいたのだが……見て見ぬふりでは問題は解決しないかね」
 天野先輩がヒノエ先輩を連れて現れる。
「そこはちゃんと対策を立てようぜ?」
 牧歌的なヒノエ先輩の発想に、俺はうっかり古き良き時代なんて言い回しを連想してしまう。性善説で世の中を回せたら素敵ではあるが、そんなユートピアがあろうはずもない。
「防犯の話はいずれしよう。今はメールにあったように有馬君対策を論じよう」
 ヒノエ先輩は部室に入っていき、ソファーに腰掛ける。
 俺と氷華梨、天野先輩も彼女に続く。
「六限目をサボれそうなメンバーはこれくらいかな?」
 天野先輩が聞いてくる。
「多分な。むしろ、授業を突発的にサボれる方が珍しいよ」
 俺と氷華梨も、今しがた六限目の先生に拝み倒してここにいる。二人から普段から授業は真面目に受けている方だ。必死に頼み込んで今日だけ目をつむってもらった。
「そう? オレは保健室に行きたいって言ったら、割とすんなり教室抜け出せたぜ? 保健室の常連なのが生きてきたよ」
 天野先輩は言うが、あえて追求はしない。この人の場合、体調不良とかじゃなく単なる怠惰だといいんだけど……。
「私は授業の範囲と思わしき部分の教科書を暗唱したら、教師が半泣きで許可してくれた」
 ヒノエ先輩は淡々と事実だけを告げる口調。そりゃ、学業面に関してはチートな魔法を使われたら嫌にもなるよな。
「みんな偉いな。というか先生に理由を言って出てきたらサボりじゃなくなか?」
 一人、頭のおかしい理屈を並べ立てている男がいた。言わずもがな、北出先輩である。
「いや、一応断りは入れておけよ。先生が心配して捜索活動したらどうするんだよ?」
 もしも北出探しが始まったら、俺が責任を取ることになりかねない。
「俺がいきなりいなくなるのは日常茶飯事だ。俺が授業をサボる度にいちいち捜索隊を組むほど先生たちも暇じゃないね」
「なるほど、なら問題はないな。……別の意味で大問題だけど」
 あえて受け入れよう。今は北出先輩を掘り下げる時間ではない。
「んで、まず確認したいことは有馬が精神汚染というか狂気症状というか、精神状態がおかしくなりつつある。俺は魔法を奪った副作用と踏んでるんだけど、そんなことってありうるの?」
 魔法との付き合い方に関しては俺より詳しいであろう先輩方に問うてみる。
 天野先輩は、顎に手を当てながら思案。そして、見解を述べる。
「なくはない話だな。アルカナ使いの魔法ってさ、個人の苦しみやコンプレックスの現れみたいなものだから。魔法を奪うってのは、同時に持ち主のマイナスの感情を請け負うことなのかも」
「なるほどな。魔法を奪われて、氷華梨の心持ちに変化ってあった?」
 もしも天野先輩の仮説が正しいなら、氷華梨は今、すごく晴れやかな気分ということになる。
「言われてみれば、気楽な気分かもしれない。相手の嘘を言ってるかわからなくなったけど、それが怖いことだとは思わない」
「心の問題だから一口に言い切るのは難しいけど、周防さんの重荷が有馬さんに移ったのかもな」
 天野先輩は深刻そうな声。
「それってやっぱりマズいことなんでしょうか?」
「周防さんの悩みは、時間をかけて周防さんの一部になっていったわけだろう。つまり、ゆっくりと負荷がかけられていったわけだ。ところが有馬さんは違う。魔法を奪ったのと同時に一気に負荷がかかった。そりゃ副作用も出るわな」
「しかも有馬さんは私だけでなく、彼女自身や名壁の魔法の重みを背負っている」
「一人でも背負うのがやっとの悩みを、三人分も背負えば普通潰れるな。うん、マズイね。早々に有馬さんをどうにかしよう。差し当たって対策ってあるの?」
 天野先輩はため息まじりい言う。
「予想では、有馬に賭けで勝てば彼女の魔法を使用停止にできる。問題は、有馬がふっかけてきた勝負が無理難題すぎる点にある」
 改めて俺は途方にくれていた。
「どんな勝負だ?」
「うちのクラスで作ったカードゲーム。トランプのダウトをベースに多少の味付けをした感じだよ」
 俺は教室から持ってきたゲームのルールブックと使用するカードをテーブルの上に置いた。
 天野先輩はルールブックにざっと目を通す。
「大まかには理解したよ。これだと『嘘がわかる』って魔法が絶対的なアドバンテージになるね」
「だよなあ。ゲームとして無理がある」
「なら運に身をゆだねて戦ってみる?」
「一昔前の少年漫画なら、努力と友情で勝利をつかめるな。このご時世に可能とは思えんが」
「持てる者が更に持てる者になっていく。アルカナ使いの魔法にも資本主義の波が押し寄せるか。ピケティ先生に助力を願いたいな」
 天野先輩、魔法理論に資本収益率みたいな謎変数をぶっ込むのはやめていただきたい。
 とはいえ、このまま有馬を放置すると、シャレにならん勢いでパワーインフレ起こしかねない。
「一パーセントでも見込みがあるなら、戦ってみるのが伝説作りの基本ルールだ。諦めるのは癪に障る」
 不快そうな北出先輩。
「ポジティブと根性論は別物だ。一パーセントしか勝ち目がないなら俺は戦いたくない」
「急募、一パーセントをいい感じに水増しする方法」
「粉飾決算みたいな言い方はやめてくれ」
「粉飾決算……不正会計……株価操作……お察しした。SNSで俺が炎上しても粛々と受け入れよう」
「うん、その付け足しが余計な発言だって気づいてくれ」
 北出先輩をたしなめても、三秒後には忘れてそうだけど。嫌な三秒ルールもあったものだ。
「んじゃお詫び代わりにアイデア出す。せめてゲームで使う数字カードを自分の都合のいいように配る方法を一つ」
「そんな方法あるの!?」
 大興奮の俺。仮にイカサマであっても、無視できない案件だ。
「パーフェクトシャッフルって知ってる?」
「二組にわけたトランプの束を、一枚ずつ完璧に交互に重ねていく技だっけ?」
「イエス。ジョーカー抜きの五十二枚のカードなら、それを八回繰り返すと全てのカードが元の並びに戻る」
「ああ、なんか小耳に挟んだことあるわ。んで?」
「カードシャッフルの際に、翔馬がいい感じに八回のパーフェクトシャッフルをしてみてはどうだろうか」
「素晴らしいアイデアだ。ただし問題が一点」
「ほほう、言ってみろ」
「いきなりそんな器用なテクニックが俺に芽生えるとでも?」
「そこはほら、一パーセントの奇跡に頼ってみようぜ。いけるいける、ご都合主義みたいにようわからんファクターが働いてくれるよ!」
 北出先輩の魔術的思考に俺は白目を剥いていた。
 どうしてこんな人が学園祭実行局を取り仕切っているんだ。下手したら局員に暴動を起こされかねないぞ。
「一応聞いとくけど、この中でパーフェクトシャッフルできる奴いる?」
 他の皆々様に確認するが、挙手する者がいるはずもない。
「誰かできる者がいて、その者から技を盗めば意外といけるかもしれんが……」
 ヒノエ先輩は悔しそうに言ってくる。
「【ハイブロウ】の性能が本気で謎だ」
「そのうち青魔法をラーニングしているかもしれないな」
 したり顔のヒノエ先輩。レベル5デスとか使っちゃうのかな。ヒノエ先輩は乙女だから臭い息の習得は拒否しそうだけど。
「それって結局、他にパーフェクトシャッフルできる人が必要ですよね。そんな人を探すくらいなら、仲間に引き込んだ方が早い気も」
 氷華梨のツッコミは正しい。
「付け加えるなら、そんな奴を探す時間はない。都合よく熟練のカード捌きが出来る人間なんて……あ、待て、一人いるわ」
 もしかしてご都合主義が起きるかもしれない。幸運の女神様が舞い降りる……かも。
「誰?」
 一同、俺の発言を訝しげに聞いていた。って、パーフェクトシャッフル作戦の立案者の北出先輩は驚かないでくれよ。
「あとで追って説明する。俺が考えたいのは有馬にどうやってトドメを刺すかだ」
「それって、カードをいかに最後まで出すかって意味?」
 氷華梨が察しのいい子で助かった。
「あのルールならスキルカードと最後の数字カードを出すのがベターかな。【ガーディアン】でダウト宣告を防ぐか、【マジシャン】で出すべき数字を変更するかだ」
 天野先輩もまた察しの早い人だ。
「それだよなあ。でも、【悪魔】のスキルカードを当てられると行動不能になる」
 有馬は絶対にアガリを妨害する。
 嘘が見抜ける相手でも質問に対して黙秘すれば多少の誤魔化しは効く。けれど、【マジシャン】か【ガーディアン】の二択なら当てられる確率は五十パーセント。
 俺はギャンブル狂ではないから安易にやりたくない。もう一声、安全策を講じたい。
「嘘がわかる有馬を、それでも騙す方法ってないかね」
 無理難題なのは百も承知。
 みんなから文句が出ても言い訳できない。
 ところが氷華梨は言うのだ。
「……あの魔法、意外と弱点あるよ?」
「はい?」
 聞いた俺本人が間抜けた反応。
「だってあの魔法の本来の持ち主は私だもん。それぐらいならいくらでもアイデア出せるよ」
「是非、ご教授願いたい」
「ただし、この方法するには一つ特殊な機材が必要なの。まだこの部室にあるかな――」

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