アルカナ・ナラティブ/第15話/13

「どうして……周防さんの魔法は嘘を見破る力じゃなかったの?」
 勝敗が決してなお、有馬は俺が仕掛けたトリックが解明できないでいた。
「有馬さん、実を言うと周防さんの魔法は五回に一回の割合で誤作動するんだ」
 すっかり落ち込んでいた有馬に天野先輩が言う。
「そ……そんなことって……!」
「嘘だよ。こんなコテコテの嘘がわからない以上、有馬さんはきちんと魔法が使えなくなってるみたいだね」
 天野先輩は爽やかに振舞う。けど、それ死体蹴りだからね?
 有馬は自分のくるぶしを確認。
 そこには呪印があったが灰色だった。すっかり力を失っているみたいだ。
「ちなみに周防さんは今の言葉を嘘だとわかった?」
「はい。私に魔法が戻ったみたいです」
「それはなにより……なのかな?」
 天野先輩の問いに、氷華梨の内心は複雑だろう。
「もう一回重荷を背負うのは素直に喜べませんけど、ゲームに勝ったのは嬉しいです」
「周防さんが言うなら、あえて追求するのは無粋かな」
 天野先輩はご満悦な様子。
「私は納得いかないわ。どうやって周防さんは嘘を見破る魔法を突破したっていうのよ?」
 有馬は噛み付くように聞いてくる。
 まあ、当然の疑問だな。
 ところが聞かれた氷華梨本人も困るしかない。
 だって、あの手品の首謀者は俺のなのだから。
「答えは極めてシンプルさ。ゲーム開始前のスキルカード割り振りのときに一手間加えたのさ」
「ボイスレコーダーだけが仕込みじゃないってこと?」
「本当ならボイスレコーダーにも気づかないでくれたら嬉しかったけどね。といっても、もしも有馬が音質に疑問を抱いたらアウトだ。保険は掛けさてもらうさ」
「周到というか粘着質というか……何をしたのよ?」
「種明かしすると、氷華梨はゲームで使うスキルカードを直接見ていない」
「はあッッッ!?」
 有馬の驚愕が室内に反響する。
「しかもこの部屋に来る前に、氷華梨には【ガーディアン】の役をやってもらうと指示してあった。つまり、氷華梨は自分のカードが完全に【ガーディアン】と思い込んでいたわけさ」
 氷華梨が嘘を見抜けるなら絶対に通じない一手。しかし、今回は有馬に魔法が奪われているのだから全く不可能な手ではない。
「ちょ、ちょっと待って。それが事実だとしてもおかしいじゃない!」
「あ、やっぱり気になる部分ある?」
「当たり前よ! それじゃあ周防さんは、翔馬が【ガーディアン】を任せると言っただけで、ホイホイ信じちゃったってことじゃない!」
「ごもっともな指摘だ。いやー、本当に上手くことが運んでよかったよ」
 内心では冷や冷やしながらプレイしてたことをここに告白しよう。
「わからない……どんなトリックを使って周防さんは翔馬を信じたっていうのよ!?」
 有馬の混乱はなおも収束しない。
 氷華梨は、淡々と首を横に振る。
「私は何か策を考えられるほど頭はよくないよ。本当に、翔馬を信じただけ。翔馬は自分を信じれば有馬さんに勝てると言った。だから信じて、勝った。――それだけ」
 ここまくると氷華梨に圧倒されるしかない。
「私、ゲーム中に翔馬との不和を起こすように騙しにかかったでしょ? それでも翔馬を疑わなかったと。周防さん、あなた一体何なのよ?」
 有馬の問いかけに、氷華梨はちょっとだけ考えて答える。
「翔馬の話だと、私はチョロいヒロイン――チョロインらしいよ?」
 氷華梨の眩い表情に、有馬はおろか俺まで汚れた心が浄化されていく。
 俺のカノジョが貴すぎる。チョロインの定義がここに刷新された。
「もういいわよ。あーあー、もうやってられない! この勝負は翔馬の完全勝利よ!」
 有馬はうなだれる。
「いや、別に俺が勝ったわけではないさ」
「なら、私が負けたとでも言うのかしら?」
「いいや。氷華梨が負けなかったのさ」
 最強のチョロインに最大限の敬意を示すために言ってみせる。
「ところで、有馬は俺に告白してきたりと回りくどい手を打ってきたよな。あれって、氷華梨を罠にハメて魔法を奪うための作戦だったんだよな?」
 とりあえず今後の人間関係のために禍根は絶っておこう。まさか俺と氷華梨と有馬の三角関係なんてないだろうけど。
「……ええ、そうね。もちろんですとも! 私は翔馬に恋心なんて抱いていませんよ!」
 軽い確認のつもりだったのに、有馬が再び激怒。
 大慌てで氷華梨を見やる。
 そのときの氷華梨の顔ったらトラウマものだった。
 見ていて不安障害でも発症しそうな笑顔。
 しかも有馬の言葉に氷華梨は無反応。『ダウトじゃないよ、安心して』とか言ってくれるわけではない。
 有馬は不敵に鼻を鳴らすと教室を去っていく。
「あー、なんというかご愁傷様。ゲームも終わったし、オレもサラバだ!」
 気まずくなった部屋から、天野先輩は俊敏に逃げ出した。
 俺と氷華梨の間には精神攻撃みたい静寂が訪れる。
「と、とりあえず俺たちも部屋を出ようか。ゲームには勝った! めでたしめでたし!」
 誤魔化していくしかない。
「ゲームに勝ったのはおめでたい。でも、翔馬は【ガーディアン】だと嘘をついて【ヒーラー】のカードを私に預けたんだよね?」
 アイヤー! 気づいてしまうとは氷華梨もお目が高い。
 彼女はズイッと俺に詰め寄る。
 更に聞いてくる。
「もし翔馬が私を裏切ったら、何でも言うことを聞くって約束したよね?」
 最強の手札を惜しげもなく切ってくる氷華梨。
「いやー、あれは言葉のあやと申しますか……日本語の難しさと言うべきか……」
「言ったよね?」
「……はい、言いました。どうか寛大な処置をお願いいたします」
 まさかこの部屋からコードレスバンジーせよとか言うまい。せめて鼻からスパゲティを食べるとか、目でピーナッツを噛むとかぐらいで済ませていただきたい。
「だったら翔馬はこれをずっと持っていて」
 と言って氷華梨はゲームに使っていたカードの中から一枚取り出し、俺に渡す。
 カードは俺が切り札に出した騎士(ジャック)だった。
 彼女は更に自分でもカードを一枚取る。
 氷華梨の手元に最後まで残っていた姫君(クイーン)のカードだ。
「私はずっとこのカードを持ってる。だから……ね?」
 恥ずかしそうな上目遣い。
 こんなの断れるわけがない。
「この騎士(ジャック)が、姫君(クイーン)を守り続けるよ」
 粛々と氷華梨からカードを受け取った。氷華梨を負かすことなど俺ごときにできるはずもない。

【XV・悪魔】了

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