アルカナ・ナラティブ/第16話/06

 学園祭二日目開始も残り三十分。裏では北出先輩が体育館にてオープニング挨拶を行っているはずだ。
 一方で俺はクラスメイトを前にして、早朝ミーティングの司会役を務めていた。
 とはいえ、まずは謝らなくてはならない。
「最初にみんなに言っておかなければならないことがある。今日の俺は、どうしても外せない予定ができた。だから、この教室にいられる時間は少ない」
 唐突な言い分に、クラスメイトはざわめき立つ。
「おいおい翔馬、それは一体どういう冗談だ?」
 一同を代表して聞いてきたのは熊沢だった。
「それは……すまない、今は言えない」
 ここで爆破予告のことを話しては、クラスメイトまでこのトラブルに巻き込むことになる。
 クラスメイトから情報が漏えいするのは我慢できる。けれど、そのせいでこいつらが学園祭を潰したという誹りを周囲から受けるのは我慢ならない。
 何かあったら、全責任は俺が取る。
 誹謗中傷だろうと刑事罰だろうと何だって来るがいい。
 覚悟は決まっている。
「どうしても……言えないっていうのか?」
 熊沢の顔つきはみるみるうちに厳しいものへと変容していく。
 他の連中も似たような感じだ。
 参ったね。こりゃあ、一歩間違えればクラスメイトから叩かれかねん。
 けれど、俺は自分の言動が正しいと確信している。
 だから曲げる理由はない。
「どうしても言えない。だけど約束する。言えないのは今だけであって、学園祭が終わったらきちんと説明すると。そのときのジャッジはお前らに任せる」
 本当は愚直に全部ぶちまけてみたい。
 でも、愚者になるのは賢人になるより何倍も難しい。
 だから俺は、中途半端に小賢しい態度を取るほかない。
 構わない。中途半端も八方美人も適量ならばバランス感覚だ。
 貫禄不足の俺でも、クラスメイトの眼差しを肩すかししないことならできる。
 多分、それが良かったんだと思う。
 熊沢が言うのだ。
「わかった。翔馬がそうなったら、俺らが束になっても変えられないんだろうよ。これまでお前が私利私欲に走ってない以上、信じてみるしか手はないな」
「すまない」
 本当なら感謝すべきなのに、謝罪の言葉しか出てこない。
「ただしさ、どっかに行く前に今後の指示や方向性だけは残しておいてくれよ、リーダー」
「問題ない。シフトの変更はさっき考えておいた」
 俺はポケットから赤字で変更点を記入したシフト表を取り出す。
 クラスメイトのスケジュールをすべて加味した構成になっているから問題はないはずだ。
 シフト表をみんなが回し読むが異論は上がってこない。
 けれど、最後の閲覧者――有馬紅華は一読してから言うのだ。
「でも、この教室に翔馬がいないのはまずんじゃないかしら?」
「その理由は? 俺がいなくても、とりあえずすべてのテーブルは回るはずだ」
「そういう意味じゃないわ。今日、このクラスの企画にくる客の中には翔馬目当ての輩もいるはずよ? むしろ『嘘つきカフェ』なんて煽るような名前にしておいて、一番の嘘つきがいないのはいかがかしら?」
 なるほど、一理ある。
 元詐欺師の噂を嗅ぎ付けた連中がこの教室に来る可能性は低くない。
 おおっぴらに詐欺師少年と会わせろとは言ってこないだろうが、こそこそと嗅ぎまわるに違いない。
 そんな中で目当ての詐欺師がいないとあれば、腹いせに誹謗中傷をネットとかに書き込みかねない。
「翔馬がいなくても、ガス抜きになるイベントなり仕掛けがほしいところね。さあ、どうするのかしら?」
 にやにやと、有馬はいじわるく笑う。
 一瞬イラっとする表情でも、彼女の提示した問題を解決しないと万全の態勢とは言えない。
 これに手を挙げたのは氷華梨だった。
「なら……私は魔王の腹心になるよ」
 いきなりの申し出に、俺を含んだ教室の一同はきょとんとしてしまう。
「えーっと、どういうこと?」
 氷華梨のカレシである俺でさえも意味が理解できずに問うしかない。
「要するに、今日のうちのクラスのメインは翔馬なんだよね。でも……そんな人間が安易にみんなの前に姿を現したら面白みに欠けると思わない?」
「まるで俺が黒幕みたいな言い分だな」
「そう、翔馬を黒幕にしてしまえばいい。もしも翔馬が黒幕なら、戦うためにはその家臣を倒さなければならない。だから、翔馬を魔王ってことにする。魔王と戦うためにはその腹心を倒さなけいけないシステムにするの。どう?」
「もともとうちのクラスはTRPGをやるってのが前提で、氷華梨のアイデアならゲーム性がますな。コンセプトには抵触しない」
 俺に爆弾事件解決の時間を与えつつ、うちのクラスに来る客の期待を煽る。
 なるほど、氷華梨にしては狡猾な手段だ。
 俺は苦笑せざるを得ない。一体全体、どこの詐欺師に似てしまったものやら。
「周防さんなら魔王の腹心にぴったりだな。どういう手品か知らないが、昨日の対戦成績は全戦全勝だったし」
 熊沢は肩をすくめて言う。
 他のクラスメイトも有馬以外はおおむね承諾した様子だ。
「よし、教室でのことはお前らに任せた!」
 俺は手を打ち鳴らして告げた。
「安心しろ、翔馬がいなくても俺たちは大丈夫だ」
 あれれ、これと似た台詞って北出先輩も言われてなかったっけか。
 ちょっと聞いただけじゃリーダーがいらない子みたいな言い回し。けれど、北出先輩の言ってたようにこれ以上に心強い言葉もあるまい。

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