アルカナ・ナラティブ/第17話/06

 この学校で起きている昏睡事件とアルカナ使いの関係はわからない。
 とりあえず、水橋先輩に任せておくのが得策なのだろう。
 でも、あの人一人に全部背負わせていいのだろうか。
 水橋先輩が苦しそうだった理由が気がかりだ。
 もしかして、この学校にはアルカナ使いですら知らない秘密がまだあるとか?
 考えてもわかるわけではないが、やっぱり気がかりだ。
 俺から話を聞くと水橋先輩は早々に部室を退散していった。俺は部室で宿題を処理してから退室した。
 その頃にはすっかり日も傾いていた。
 部活終了時刻とかぶっており、部活動に勤しんでいた生徒たちで溢れかえっていた。
 本日は氷華梨と一緒に下校する予定はなかったが、せっかくなのでメールにて一緒に帰れないか聞いてみた。
 結果はOKということで学校前の公園で待ち合わせ。
「お疲れ様、待った?」
 公園の入口で待っていると氷華梨が現れる。
 街灯に照らされた彼女の顔が赤らんでいた。秋の冷えた空気のせいか、部活で激しい運動をしたせいだからか。
「いいや、俺も今来たところだよ」
 まるでデートの待ち合わせのテンプレみたいな台詞を紡いでみる。事実だからそう言うしかないんだけど。
「んじゃ、帰ろっか」
 と氷華梨。
 俺は頷くと、二人して駅の方へと歩き出す。
「病院から、何か連絡あった?」
 氷華梨が聞いてくる。彼女としても調理実習中に倒れたクラスメイトが気になるのだろう。
「いいや。実はさっきケータイで担任に容態の変化とかなかったか聞いてみたけど、相変わらずだとさ」
 当たり前だが担任である柳川先生が病院と学校の連絡係みたいな役割をしている。
「そっか。心配だね」
「まったくだ。しかも、その件でさっき水橋先輩と話をしてきた」
「それはまた、どうして?」
「先輩の話だと、この件にアルカナ使いの魔法が絡んでいる可能性も否定できないんだと。他のクラスでも原因不明の体調不良が頻発してるらしい」
「そうだったんだ。でも、人を体調不良にする魔法って……そんなのアリなの?」
「氷華梨の気持ちはわからんではない。俺らアルカナ使いの魔法って基本的に効果がビミョーだからな」
「姿を変えられる、嘘がわかる、何でもかんでも忘れずに記憶し続ける――。確かに、少年漫画だったらあんまり強いキャラの能力じゃないね」
 氷華梨が少年漫画を引き合いに出してきたので一瞬意外な気がした。しかし、実はこの子、かなりの少年漫画好きだった。月曜日には男子が持ってきた某少年漫画雑誌とか借りて読んでいた記憶がある。
「アルカナ使いの魔法は、基本的に攻撃向きじゃないからな。強そうなのといったら阿加坂や名壁の魔法があるけど……」
「【皇帝】の絶対命令は短時間しか効果が出ないし、名壁はそもそも休学中。今わかってる他のアルカナ使いの魔法では人の体調を狂わせる効果があるとは思えない。となると……まだわかってないアルカナ使いの魔法の可能性がある……?」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。アルカナ使いが絡んでいるという考えもまた憶測にすぎない段階だ」
「だよね。仮説に仮説を重ねるのは危ないよね」
「氷華梨にしては理屈っぽい物言いだな」
「てへへ、翔馬の考え方の癖がうつったのかも」
 気恥かしそうに笑う氷華梨。
 俺としては嬉し恥ずかしだけど、氷華梨が女版瀬田翔馬になってはたまったものではない。
 氷華梨には氷華梨の良さがあり、俺としてはそれが尊いのだからそのままの氷華梨であってほしい。
「すべてが仮説で、なんとも言えない。やっぱり他のアルカナ使いを早々に見つけるのがいいんだろうな」
「だよね。……もっとも探す方法が見つからないんだけど。私、せっかく嘘がわかる魔法が使えるんだから、もっと上手く活用したいな」
「あんまり気負う必要もないとは思うけどな」
「そうかな……?」
「そうですとも。そもそも、氷華梨の魔法って相手が故意で嘘をつかない限りは看破できないし。残りのアルカナ使いが自分をアルカナ使いと自覚してなきゃ効果がない」
「逆に言えば、アルカナ使いだと自覚があれば見破れるんだけどね」
「そりゃそうか。そこら辺、水橋先輩に相談してみる?」
「ありかもしれないね。とはいえ、そのときは翔馬も一緒に来て欲しいんだけど……ダメ?」
「全然構わないけど、やっぱり水橋先輩とサシで話し合うのは苦手?」
「うん、まあ、翔馬以外の男子と二人きりっていうのが苦手なのも大きいけど。あと、水橋先輩と二人きりになって話題が尽きたらどうしようかって不安もある」
「あの人は、そこまで悪い人じゃないけどな」
「それはわかるけど、悪い人じゃない分、気まずい思いをさせちゃったら失礼かなって」
「そういうもんですか」
「ごめんなさい」
「いやいや、そう身を縮こませますな。とはいえ、よくよく考えると水橋先輩と氷華梨が喋ってる場面ってあまり見かけないな」
「あまり接点がないと言えばないから。あと……いや、これは多分私の被害妄想だからいいや」
「何だよ気持ち悪い。怒らないからいってごらん」
「えっとね、私の不安がそういう思い込みを作ってるだけなのかもだけど、私、水橋先輩に避けられてる気がするの」
「ほほう、そりゃまた穏やかじゃない」
「何というか、水橋先輩は私を警戒して距離を取ろうとしているような、そんな印象を受けるの」
 元々男性恐怖症だった氷華梨である。男子には無意識的に警戒心を抱いているのかもしれない。となると、警戒された男子側もよほどフランクな性格でない限り距離を感じずにはいられないのかもしれない。
 しかし。
 もしも水橋先輩の方から氷華梨に距離を取っているとしたら……?
 いやいや、どんな理由があってあの人が氷華梨を警戒するんだよ。
 水橋先輩が氷華梨に対してやましいところがあるとは思えない。
 となると、やっぱりここは氷華梨の勘違いなのだろう。
 少なくとも、俺はそう信じたい。

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