アルカナ・ナラティブ/第18話/02

「生徒会メンバーがアルカナ使い?」
 理事長から告げられた真実。
 一同驚愕せざるを得ない。
「まことに遺憾だが、嘘偽りのない事実だ」
 申し訳なさそうな理事長。
 彼の態度が気になった俺だが、すぐにその理由に行き当たる。
「もしかして、理事長が気にしているのは生徒会長の創木素子(つくるぎ・もとこ)のことか?」
 案の定、図星らしく理事長は頷いた。
 ――創木素子。
 苗字からも分かる通り、理事長こと創木幻十郎氏の身内、もっと言えば娘である。
 そんな人間が一年生にして生徒会長に就任したとあらば、学校でも大きな話題になっている。
「聞きたいことだらけではあるが、俺が質問したいことは大まかに三つだ。一つ目、どうして残りのアルカナ使いたちが生徒会役員として結集したのか。二つ目、生徒会メンバーの魔法とその効果。そして三つ目、そもそも論として『アルカナ使い』とは何なんだ? 何のためにそんなシステムが存在しているんだ?」
 矢継ぎ早な質問が無粋なのは承知している。
 それでも聞かずにはいられなかった。
「一つずつ説明していこう。まずは娘を含むアルカナ使いが生徒会メンバーになった理由。これは分からない。そして二つ目の他のアルカナ使いたちがどのような能力を保持しているかだが、これは一部だけしかわかっていない」
「わかっている範囲でいいから教えていただきたい。アルカナ使い研究書に記録したく思います」
 ヒノエ先輩はパソコンのマウスを操作して、ソフトを立ち上げていた。
「分かっているのは副会長の一年生である七星浄夜(ななほし・じょうや)君、会計で二年生である笹倉奈魚(ささくら・なお)さんの二名だ。七星君の方は【審判】の魔法は『一度だけ誰かの病気や怪我を完治させる』こと。そして笹倉さんは【月】で『他者を自分の夢に引きずり込む』魔法を使えるらしい」
 理事長が説明に、俺は思わずたじろいだ。
 話を聞くだけでも強そうな魔法である。
【審判】の方は要するに高位の回復魔法っぽい内容だ。
【月】の方はたとえ夢の世界であっても自分のテリトリーに相手を引きずり込める。
 おいおい、アルカナ使いの魔法って、効果がショボいものばかりじゃないのかよ。
 と同時に、俺はふと思う。
「もしも【審判】のアルカナ使いが本当に誰かの病気を治せるなら……」
 そこまで言って、俺は天野先輩の方を見た。
 俺だけではない。
 他のメンバーもだ。――特にヒノエ先輩は今にも泣きだしそうな顔をしている。
 天野先輩は普段はふざけた態度で誤魔化しているが、命に関わる難病を患っている。
 そんな中で【審判】の魔法の存在は、もしかして、いや、もしかしなくても救いの手なのではなかろうか。
「理事長、【審判】の魔法については本当に本当ですか?」
 天野先輩はいつも見せない真剣な眼差し。
「少なくとも、私はそう聞いているよ。もちろん、彼が虚偽申告している可能性は否定できないがね。君たちの中には相手の嘘を見破れる魔法の使い手がいたはずだ。確かめてはどうだろうか?」
 次に視線が集まる先は氷華梨である。
「そういうことなら任せてください」
 氷華梨は力強くうなずいてみせる。
「篝火……」
 ヒノエ先輩は未だに泣き出しそうな顔のまま。
 だけど、ぎりぎりのところで踏みとどまっていた。
「おいおい、ヒノエ。まだ本決まりじゃないんだぜ? エンディングまで泣くんじゃないって言葉を噛みしめてくれ」
 天野先輩は困った様子。
 そして、彼は続ける。
「【審判】の二年生の件はもちろん気になるけれど、もう少し情報の開示を求めましょう。【太陽】と【世界】のアルカナ使いについては謎のままですか」
「そういうことになる。一応、書記の一年生の女生徒が【太陽】のアルカナ使いではあるらしい。【XIX】の呪印は確認済みだ」
「ということは、生徒会長の素子さんの方が【世界】のアルカナ使いである、と」
「必然的にそうなるね」
【世界】のアルカナ使いで、しかも学園の一番偉い人の娘ときた。
 まるでラスボスの設定みたいだな。まさか『ザ・ワールド』みたいに時間を止められたりしないよな?
 くだらないことをなんぞを考えている場合ではないか。
「でも、どうして魔法の中身が分かった生徒と、そうじゃない生徒がいるんだ? 特に娘さんの方なら話してくれても不思議はなさそうだけど」
 俺からの当然の疑問。
「娘に関しては……この学校に入学してからというもの、口を聞いてくれないのだ」
「はい?」
「割とそのままの意味だよ。もちろん、私が忙しい身で娘と関われる時間が少なかったというのもある。しかし、可能な限り努力はしてきたつもりだった。なのに、彼女は私へのメッセージはメールや紙への書置きだけで済ませようとする」
「それは思春期の女の子特有の、父親を回避する行動とかではなく?」
「かもしれないし、違うかもしれない。けれど、確かめようにも娘が私と話そうともしないのだ。どうにもならない」
「難しい問題だな。そこら辺は懸案事項ということで一時的に棚上げか。では、理事長先生、最後の質問なんだけどアルカナ使いというシステムってのは結局のところ何なんだ? 【愚者】たちの魔力を集めて他のメンバーは魔法が使えるってのは承知している。でも、なぜそんなシステムが必要なんだ?」
「それは……」
 これまで様々な質問に真摯に返してきてくれた理事長が言いよどむ。本当に、話の核心らしい。
「アルカナ使いというシステムは、かつての私の後悔から生まれた産物だよ。私は昔、この学校の教師だった。そのとき救えなかった生徒への贖罪だ」
「それって、どういう……?」
「昔ね、私が受け持った生徒が家庭事情から荒れすさみ、挙句、人の道を踏み外した。結局、その子は退学した。私はどうにか全ての生徒が道を踏み外すことなく、まっとうな道を歩めるシステムがないかを考えた」
「それがアルカナ使い……? いやいや、理事長の目的と直結していないんだけど? アルカナ使いの中にもおかしな奴っていっぱいいるし」
 主に名壁とか名壁とか名壁とかな。
 大事なことなので三度繰り返した。
「アルカナ使いは……未だ発展途上のシステムだよ。生徒から魔力を集め、奇跡を蓄積する。募った奇跡がいつか全ての生徒を救済する魔法を生み出すことを私は待っている」
「言っている意味が……わからない」
「そうかね? アルカナ使いは様々な魔法を行使できる。そしてその効果のインパクトも千差万別。ならば、全ての生徒の助けとなり、養いとなる魔法が生まれても不思議ではない。そうすれば、かつて私が受け持ち、そして助けられなかった子の二の轍を踏む生徒が出るのを防げるかもしれない」
 理事長の理屈は、もはや理屈として破綻していた。
 けれど、彼の気持ちがわからないではない。
 もしも過去に対する償いが完璧に行えるなら、そんな魅力的な話があるだろうか。
「理事長……あなたも取り返しのつかない失敗をしたんだな」
「そうだね。どこかの詐欺師だった少年と同じように、私は決定的に間違っている」
 理事長にそう言われて、俺は心がへし折れそうだった。
「……以前から疑問だったんですが、どうして俺はこの学校に入学できたんですか? 学校側だって俺の過去を知らないわけではない。なら、触法少年なんて入学させるのは学校側に利益があるとは思えない」
「学校法人は単に利益を上げることだけが目的ではないよ。……という説明では納得しないだろうね」
「当たり前です。今時、慈善事業なんて胡散臭くてしょうがない」
「ならば……。しいていうなら、君の入試の成績だね」
「それが何か?」
「表沙汰にはしていないが、入試の筆記試験においては瀬田翔馬の得点は全受験者中トップだった。しかもダントツにだ。事情が事情なので入学式での生徒代表には選出できなかったが、それでも優秀な生徒を不合格にはできないよ」
「なるほど。そりゃそうだな」
 まさか筆記で一位の人間を不合格にしたら試験の意義すら疑われる。
「というか、私としては翔馬君の頭のデキが本気で謎だ」
 ヒノエ先輩が呆れたように言う。
「いやいや、だって俺は中学で不登校だったんだぜ? 暇な時間を猛勉強に当てれば試験で良い点は取れるって」
 学校に通って効率の悪い一斉授業を受ける方が勉強できる量は少ないに決まっている。もっとも、自習独学となるとモチベーションの維持は難しいけど。
「君の言葉が全国の不登校児の救いになってくれると嬉しいが……やっぱり翔馬君は規格外な存在だよ」
「規格外って……俺は曲がったキュウリか大きさの足りないリンゴじゃないぞ?」
 苦笑するしかない。
「さて、君たちは今後どうするかね?」
 理事長は俺たち全員に視線を送る。
「そうですねえ、俺としては変なトラブルに巻き込まれるのはゴメンだよ。というわけで、ここは先手必勝ってのもありかなあって思うわけだ」
「というと?」
「言わずもがな。残りのアルカナ使いたち――生徒会の面々にご挨拶をしておこうってことだよ」

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