アルカナ・ナラティブ/第20話/06

 結局、正月三が日の間に烏丸からの連絡はなかった。
 七星への説得工作が難航しているのか、それとも彼女が折れてしまったのかは分からない。
 あるいは、最初から七星を説得する気がなかったのかとも考えられるが、彼女を疑ってみたところで始まらない。
 一月五日。
 この日は天野先輩の面会謝絶が解かれたということらしい。
 そこでヒノエ先輩から是非、天野先輩の見舞いに来てほしいという連絡があった。
 彼女からの呼び出しと言うのも不思議だが、断る理由もないので俺は氷華梨と共に病院へ。
 時刻は午後一時。
 日は空の高いところに昇っているが、寒さが身にしみる。
 病院に到着し、正面玄関をくぐる。
 正面玄関の先には待合所があり、そこでヒノエ先輩が待っていた。
 相変わらず彼女は黒マントを羽織っており、遠目からでもすぐにわかった。
「新年初めて会うから、挨拶はあけましておめでとうになるかね?」
「そうなるな。明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます」
 俺と氷華梨はそれぞれ言った。
 簡単に挨拶だけ済ませると、俺たちは天野先輩の病室へ。
 天野先輩は折り畳み式ベッドの背だけを持ち上げた状態で、スマホを睨みつけていた。
 タッチしようとするも、すぐに指を離し、苦悶を漏らしていた。
「明けましておめでとう。一体何があったんだ?」
 天野先輩がスマホを操作できる程度には回復しているみたいでひとまずは安心する。
 だけど、この人の場合、元気なフリをしているだけの可能性は無視できない。
「あけおめ、ことよろ! 翔馬、お前に一仕事依頼したい」
 神妙な面持ちで俺に言ってくる天野先輩。
「俺に出来ることなら何でも任せてくれ。逆に言えば、出来ることしか言わないでくれよ。出来ることしか出来ないし」
「よかろう。ならば、この画面の『召喚』というボタンをタッチしていただきたい! 是非に!」
 ……はい?
 天野先輩に提示された画面には、スマホゲームのインターフェイスと思わしきものが映っていた。
 そこには確かに『召喚』と書かれたボタン。
 よく分からんが、詳しい事情は押してから聞こう。
 天野先輩のスマホを受け取ると、特に迷いもなく召喚ボタンにタッチする。
 すると、画面に虹色の光球エフェクトが数個現れ、それがグルグルと円軌道を描きながら回転していた。
 んで、金色のカードが現れたかと思うと、それの面が反転し何かしらのキャラクターが登場する。カードの上部には星が横一列に五つ飾られている。
「勝った。ありがとう、ありがとう、本当にありがとう!」
 天野先輩は一方的に感謝してくるが、やっぱり事情がわからない。
「このキャラクター強いの?」
 素人丸出し、というか未プレイ丸出しの質問。
「正月ピックアップのアタリキャラと名高い御仁でございます! ちなみに上に星が五つ並んでるカードが出る確率は一パーセントでござーい」
 ブッ!
「凄い確率のを引いたな、俺」
「まったくだ。やはり無欲の指は強い。物欲センサーをすり抜けるには、ピュアハートの持ち主に協力してもらうのが一番だ」
「俺の心はそこまで清らかではないのだが?」
「何をおっしゃいますか! 翔馬イズ純粋。翔馬イズ潔白。翔馬イノセント!」
 買いかぶりすぎだと思うんだけどなあ。
「というか、スマホゲームって面白いの?」
 基本的な疑問を問うてみる。
「ものによるけど、これはハマる要素があるかと。そして、その手のハマる要素を分析しながらプレイするのも一興かと」
 学習意欲の高いお言葉である。
「さて、諸君、本日はお見舞いに来て頂きありがとう。えっと、もう一年生二人はもう冬休みの宿題は終わったかい?」
 俺と氷華梨はそれぞれ頷く。
「明日から学校が始まるしな。やることはやっているよ」
 年末年始は七星絡みの交渉も烏丸に任せっぱなしだったから、空いた時間は有効活用した。
「天野先輩は……明日から学校来れるんです?」
 氷華梨の問いに天野先輩は首を振る。
「いやー無理。ドクターストップかかっちゃってるから。てか、どうせ三年生の三学期なんて、受験やら自由登校で人もまばらになるもんらしいから。つーわけで、俺は卒業式に出るくらいですなあ」
 あっけらかんと言う天野先輩。
 その言葉には未来を生きる意志があった。
「篝火は、学校を卒業まで死なんよ」
 ヒノエ先輩は力強く言い切った。
「お、おう。そうだな。そうだといいな」
 ヒノエ先輩に気圧されるような物言いの天野先輩。
「そうだといいな、ではなく。そうするのだ」
 ヒノエ先輩は強い決意を秘めた眼差しで告げる。
「どうだろう……。俺も最大限努力はするけど、でも、こればかりは……」
「いや、生きろ。これは命令だ」
 味方によっては横暴なヒノエ先輩の言葉。
 でも、彼女の気持ちも十分に理解できる。
「そうだぜ、先輩。俺だって七星に魔法を使ってもらうように交渉はしている」
「へえ、そりゃありがとう。うん、そうか。俺、春まで、いや春を過ぎても生きていたいな」
 天野先輩は照れ臭そうに笑う。
 だから、俺の決意は一層強く固まる。
 どうにか七星には【審判】の魔法を使ってもらう必要がある。
「そう言えばヒノエ先輩、烏丸――【太陽】のアルカナ使いの一年生から連絡あった?」
 今さらという気もするが聞いてみる。
「あ、ああ……」
 しどろもどろなヒノエ先輩の返答に疑問を抱く。
「どうした?」
「いや、何でもないよ。ただ、彼女とは単なる世間話をしただけにすぎないがね」
 ヒノエ先輩は顔をこわばらせながら答えた。
 しかし、
「ダウト」
 氷華梨がヒノエ先輩の嘘を指摘。
「う、ああ。まあ、そうだね。嘘と言えば嘘になるのか」
 ますますもってヒノエ先輩が硬直していく。
 ヒノエ先輩がついた嘘に俺は大きな疑問を抱いた。
 彼女の言葉が嘘なのは、氷華梨のダウト宣告から明らか。でも、ヒノエ先輩はどうして氷華梨がいるこの場で嘘をつくなんて愚行を犯したのだろう。
 いくらヒノエ先輩が切った張ったが苦手なタイプだとしても、氷華梨が嘘を見破れることは百も承知のはず。
 もしかして、氷華梨の魔法を考慮に入れられないほどの問題をヒノエ先輩は抱えている?
「何かあったのか?」
 ぼんやりとした質問ではあるが、ヒノエ先輩に揺さぶりをかけるには丁度いいと思う。
「……実は、翔馬君には話しておかなければならないことがある」
「そうか……。こういう場合は、二人きりで話した方がいいのかな?」
「すまない、氷華梨君。翔馬君は私が持って行っていいかね?」
 ヒノエ先輩の言葉に、氷華梨は、
「はい、構いませんよ?」
 不思議そうに頷く。
 そのやりとりに、俺はため息をひとつ。
 念のためと言わんばかりに、質問を投げておく。
「ところで、天野先輩はヒノエ先輩を愛しているかい?」
 唐突すぎたためか天野先輩は一瞬だけきょとんとする。しかしすぐに、
「もちろんだ」
 答える。
「んじゃ、ヒノエ先輩は天野先輩を愛しているかい?」
「当たり前だ」
 俺から目を逸らすように答えるが、氷華梨のリアクションに驚きの表情はなし。天野先輩もヒノエ先輩も嘘をついていない。つまり、愛も変わらず相思相愛である。
「んじゃ、ヒノエ先輩どこでお話をお聞きしましょうか?」
「そうだな。人気が少ない中庭辺りで話をしよう」

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