アルカナ・ナラティブ/第21話/08

 結局、あれからかなり粘ってみたが創木が折れることはなかった。
 仕方なしに俺は下校する。
 創木からの宣戦布告に俺はどう対策案を練っていた。
 卒業式までに彼女への魔法を退ける方法を考えなければ、俺とみんなとの想い出も書き換えられる。
 改めて創木の魔法についての情報をまとめてみよう。
 対応しているアルカナは【世界】。
 名前は【カーナーティスト】。
 魔法効果は『他者の想い出を書き換える』こと。
 ……これだけの情報で、すでにラスボス感溢れる強力な雰囲気だ。
 けれど、彼女の魔法が万能でないのは分かっている。
 まず、彼女の魔法はあくまで他者にしか使えない。それは俺が【レンチキュラー】で彼女に化けた時に魔法を防げたことから明らか。
 もう一つは、彼女の魔法の発動条件。
 彼女の魔法は無条件で人々の想い出を書き換えられるわけではない。
 創木が偽の想い出を口にして、かつ、対象者がそれを聞いている必要がある。もしもそうでなかったら、無条件でこの世界の人々の想い出を書き換え放題である。
 だからこそ、彼女は全校生徒が聴衆と化す卒業式まで待っているのだ。
 とはいえ、そんなことが分かっても、それが彼女への対抗策に組み込めるかは未知数だ。
 少数人ならば卒業式の日に欠席するように説得させられるかもしれない。でも、それが全校生徒ともなると無理な話である。
 まさか卒業式自体を中止させることもできまい。仮に、何かの奇跡が起きて卒業式を中止させられても創木はまた別の機会――例えば三学期の終業式などを使って【カーナーティスト】を使用するだろう。
 根本的な問題解決につながる一手を打ちたいところだ。
 なるほど。
 俺、大ピンチだな。
 しかもアルカナ使いになってから最大級のピンチだ。
 あーあ。どうして俺ってばこんなに面倒事に巻き込まれるかねえ。
 でも……これを乗り越えないと氷華梨との未来がないなら、乗り越えないわけにもいかないよな。

   ◆

 そして、何の解決策も思い浮かばないまま卒業式まで後三日という時期にまで追い詰められる。
 あー、こりゃ本格的にマズイわ。
 本日は二月二十七日の金曜日。
 卒業式は来週の月曜日である三月二日。
 時間がないのにアイデアもない。
「翔馬、どうしたの? 最近、顔色が悪いけど……」
 放課後。
 一緒に下校すべく最寄り駅まで歩いていた氷華梨が声をかけてくる。
 実は創木の計画については氷華梨には話していなかった。
 彼女に心配をかけたくないというのが一番の理由だ。想い出が書き換えられてから未だに氷華梨は譲徐不安定な部分がある。いらない負担はかけたくなかったのだ。
「そ、そう? 俺、そんなにしんどそう?」
「うん。もしかして、アルカナ使いに関係してること?」
 さすが氷華梨である。想い出の書き換え補正に関わらず勘がいい。
 ここまで来ると彼女への隠し事は不可能である。そもそも嘘が通じないというのもあるし、言葉巧みに誤魔化しても彼女の慧眼は潜り抜けられない。
「実は――」
 俺はこれまでの経緯を氷華梨に話した。
「うん……そんな大事なことどうして今まで黙ってたの?」
 氷華梨、割りとご立腹なご様子だ。
「いや、だって、お前に無意味な心配とかかけたくなかったし」
「無意味じゃないよ。翔馬はきっと私の大切な人だから、私は助けたい」
 未だに想い出が取り戻せたわけじゃないのに、強く言ってくる氷華梨。
 ここら辺が、理屈で行動しない彼女の最大の強みなんだよなあ。
「でも……俺には創木への対策が思いつかないんだよなあ。どんなに誤魔化しても、いずれ創木は魔法でみんなの想い出を書き換えるだろう」
「創木さんは……きっと優しい人なんだろうね。でも、その優しさは間違った優しさだと思う」
「俺もそう思う」
「もしも創木さんがアルカナ使いじゃなかったら、彼女は普通の高校生活を送っていたのかな?」
「もしもを考えても意味はないけれど……そうだな。多分、普通の大人しい生徒として過ごしていた気がする。……あ!」
 そこまで言って俺は素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたの?」
「それだよ氷華梨! そうかそうか、すごく簡単な話だったんだよ。もしかしたら、創木の魔法をどうにかできるかもしれない!」
「本当に!?」
「ああ。でも、この方法を取るためにはもう一人協力者が必要だ」
「誰?」
「そりゃあ、もちろん、今回の騒動の重要人物――天野先輩だよ」

   ◆

 それから俺たちは、急遽天野先輩が入院する病院に向かった。
「やあ、翔馬。……それに周防さんまで。ちょっと最近調子が悪いから寝たままでいいかな?」
 声に覇気がない状態で、天野先輩は俺たちを出迎えた。
「この人が……天野先輩?」
 氷華梨がおっかなびっくり天野先輩を見やる氷華梨。
「まるで初対面みたいな言い方だね、周防さん。なるほど、これが創木さんの魔法の影響か」
 悲しそうに言う天野先輩。
「ごめんなさい……あれ、おかしいな。何だか胸の辺りが凄く痛む」
 そういう氷華梨の頬に涙が流れていた。
「もしかして……オレを見て何か思い出した?」
 優しい眼差しで天野先輩は聞く。
「いえ、でも……あなたがいたときの想い出が、うっすらと、すごくぼんやりとよぎったような気がします」
「へえ……。でもオレは周防さんが泣くほどのことはしていないと思うけど。どっちかと言うと、君はオレのことを苦手っぽかったし」
「それでも……翔馬の話ではあなたがいなかったら、私と翔馬は付き合っていなかったらしいです。だから、きっと私はあなたに感謝していたんだと思います」
「そっか~。まあ、人間の感情って複雑だからね」
 天野先輩はベッドに横になった状態で天井を仰ぐ。
「さて、天野先輩。早速で悪いが、本題に入らせてくれ」
「いいだろう。というか、俺も体力的に長話はキツイ」
「そうか……でも、ちょっとだけ無理をしてもらいたいんだ」
「へえ、まあいいや。どうせ後少ない命だ。せっかくの御縁だから、お前のために削ってやるのもいいかもな」
 穏やかな表情で言う天野先輩。
「だったら、俺からの交渉だ――卒業式の日に学校に行ってみない?」

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