ギフテッドな僕ら/第6話

~ギフテッド~


 美術室の机を一箇所に集め、僕、虎目さん、鳴海さん、そして説田さんはお茶会をしていた。
 自販機で買ったジュースと、猫流さんが職員室でもらったクッキーを飲食する。ささやかかもしれないが和やかな時間だ。
 ……ただひとり、虎目さんを除いては。
 虎目さんは先刻、蝶野さんには命令を跳ね除けられ、鳴海さんには身体を跳ね除けられた。
 無駄に自尊感情が高い虎目さんが、この状況で上機嫌になれるわけがない。
 虎目さんは不機嫌そうに、出されたクッキーをしかめっ面でつつく。せっかくのお茶会なのだからもっと楽しそうに食べるべきだ。
 今にも爆発しそうな虎目さん。猛獣の檻の中に放り込まれたような気分。
 一方で、鳴海さんと説田さんは朗らかな顔でクッキーを食べていた。
 僕は改めて平和の意味について考えさせられた。
 平和は誰かに与えられるものではない。自分たちでつくっていくものなのだ。
 それはきっと国家間から食卓の問題まで一貫した真理だと思う。
「くそ、オレはさっさと帰りたいのに、どうして……」
 虎目さんはぶつくさとつぶやきながら、クッキーを齧る。
「どうして早く帰りたいんですか? なにか用事でも?」
 説田さんが虎目さんに聞く。
「いや、特に用事ってほどのこともないんだけど、オレ学校嫌いだから」
 虎目さんは淡々と返答。
「ほう。そうなんですか」
 説田さんは頷くが、それ以上の深く突っ込んだ質問はしなかった。
 けれど虎目さんは、
「だってさ、オレ学校では嫌われ者だから。そんなやつがいつまでも学校にいたら、みんな嫌がるだろ。もっとも、家に帰っても嫌われ者だから、学校を出たら街をぶらつくだけなんだけどな」
 聞かれてもいないことを喋りだす。
「そうなんですか? 私は特に虎目さんのことを嫌いではありませんよ」
 説田さんはきょとんとした顔で言ってみせる。なんの気もなしに紡がれた言葉なのだろうが、僕はそこにコミュニケーション能力の高さを垣間見た。
 ナチュラルに相手への好意を示すのは正直言って恥ずかしいものだ。けれど、説田さんはそれをさらりとやってのける。
 コミュ障の僕には羨ましい限りだ。
 ……いや、僕も一度、虎目さんに面と向かって『可愛い』と言ったことがあったな。でもあれは、虎目さんに食ってかかられて怯えながら吐き出した言葉だ。別に僕にコミュニケーション能力がある証明にはならない。精々、サバイバビリティの指標にしかなるまい。
 そんなやりとりをしている中で、僕はふと美術準備室の扉を見やる。
 蝶野さんが扉を少しだけ開けて、僕らのお茶会の様子を眺めていた。
 彼女と目が合ってしまった僕は、思わず視線を逸した。コミュ障は人と目を合わせるのが苦手なのだ。
 僕だけでなく、他のメンバーも蝶野さんに気づく。
「如月さんも、こっちにきてクッキー食べません?」
 提案したのは説田さんだった。細やかな心配りがハンパない。
「え、本当?」
 目の中で星が煌く蝶野さん。
 彼女は賑やかな雰囲気が気になって、様子見に出たのだろう。
 天岩戸に引きこもったアマテラスに似ているな。アマテラスも引きこもったはいいが、外の賑やかさが気になって天岩戸の隙間からチラ見したらしいし。
 蝶野さんは今にもよだれが垂れそうな顔。しかし、すぐに首を横に振った。
「アタシは現在立てこもりの身なのだ! だからそっちに行くわけにはいかない。アタシの決意の硬さはダイヤモンド並みなのだ!」
 言うやいなや、蝶野さんは再び扉を閉ざしてしまった。
 蝶野さんの様子を見て虎目さんは、
「しまった、あのバカが油断してるスキに、突入すればよかった」
 相手の油断につけこまないのは、彼女なりにお茶会を楽しんでいるのかもしれない。
 しばらく思案し、虎目さんは言う。
「もういいや。誰か職員室に言って準備室のカギを貰ってきてくれ」
 自分でいかないのは、多分彼女自身、教師たちの印象が悪いと自覚してのことだろう。
 しかし説田さんは、虎目さんに告げた。
「それだと扉は開きますけど、根本的な解決にはならないですよ? いくら如月さんを力づくで準備室から退去させても、確実にお二人の作業を妨害します。それでもいいんですか?」
「オレは一向に構わん! 邪魔をするならなぎ払えばいい」
 相変わらずのゴリ押し思考。
 これは扉が開いたら開いたで面倒な事態に陥りそうだ。
 さりとて、僕らは懲罰の一環として奉仕活動を仰せつかった身。
 このままなにもできずに一日を終わるのもマズイ。
「ふむ、困りましたねえ」
 説田さんは美術準備室を見ながら言った。
「僕らとしては美術準備室の片付けをするのが仕事なんですが……」
 僕の吐いた弱音は、同時に説田さんへのSOS信号だ。
 他者に直接どうにかして欲しいと頼むのは、僕が一番苦手とすること。コミュ障は交渉が苦手なのだ。
 でも、説田さんのコミュニケーション能力なら、僕の言葉の意図を汲み取れるはず。
 けれど、説田さんの返答は予想もしないものだった。
「それだったら、悠司君がどうにかしてみるというのはどうでしょう?」
 あれ、自助努力ですか?
「いや、でも僕には無理ですよ。だってほら、僕は喋るの苦手だし。だから……」
『だから……』の次の言葉が出てこない。
 そして、いつものごとくコミュ障な自分への自己嫌悪。
「喋るのが苦手だったら、それは交渉上手になるチャンスですよ」
 説田さんが摩訶不思議なことを言い出す。僕は自分の耳を疑った。
「えっと、意味がわからないんですけど……」
 まるで禅問答をされているみたいだ。まさか次に説田さんは屏風から虎を出せとは言うまいな。
「悠司君は相手と交渉するときに、まずしなきゃいけないことってなんだと思います?」
 戸惑う僕に対し、説田さんが問う。
「それは、えっと、やっぱり舐められないことですかね? 相手に足元を見られたら、交渉は有利に進まない」
「それでは交渉ではなく、脅迫になってしまいますよ」
 説田さんは、クスリと笑いながら首を横に振る。
「だったら、どうすればいいんです?」
「交渉において大事なのは相手を知ることですよ」
 説田さんはまず端的に答えを言ってみせた。
 そして、彼女は更に続ける。
「交渉を円滑に進めるためには、自分の言葉や都合を一方的に押し付けてはダメです。まずは相手の立場で物事を解釈してみる。その次に自分なりの思いや要求を出して、相手とすり合わせる。これが交渉、いいえ、交渉を含めたコミュニケーション全般にいえる極意です」
 よどみなく説田さんは語る。
「なるほど。言われてみればその通りですね」
 僕は頷いてみせる。しかし、どうして説田さんが急にそんな話をし始めたのかという意図は読めない。
「そして、悠司君には相手の立場を冷静に解釈していく才能があると私は思います」
 再び、僕は自分の耳を疑った。
 僕に……才能?
 いやいや、だって所詮僕は昼行灯ですよ?
「なにをいきなり……」
 たじろぐ僕。
 僕は恐怖すら感じていた。
 僕は人から肯定的な意見をもらうことに慣れていない。
 にもかかわらず、本日で会ったのが二度目の人間に『才能がある』と言われた。これは喜びもなくはないが、胡散臭さを禁じえない。
「この前の交番や、今日のお茶会での悠司君を見ていて思ったんです。悠司君はまず人と接するとき相手を客観的に観察しようとしますよね?」
 ズバリと的を射る指摘に、僕の心臓は縮み上がる。
「え、ええ、そうですね。直さなきゃいけない癖だと思います。ごめんなさい」
 テンパった僕は、とりあえず謝った。
 ところが僕の態度に、説田さんは首を傾げる。
「どうして直す必要があるんです?」
「だって、相手を観察しなきゃ落ち着かないなんて変でしょう? そうやって人の輪の中に入っていけず、僕はコミュ障になっていく……」
 言っていて気分が重くなってくる。
 早くこんな性格は直したい。一八〇度性格を変えて、社交的で明るい人間になれたらどれだけ幸せだろうか。
「人の性格なんて、そうそう簡単に直りはしません。それに性格を『直す』という考え方がそもそも不健全です。性格を変えられないことに悩むより、その性格をどう活かすかを悩んだ方が、ずっと建設的です」
 僕には、説田さんの言葉が綺麗事にしか聞こえない。
 けれど、綺麗事には二種類ある。それは汚い綺麗事と、美しい綺麗事だ。
 説田さんの綺麗事は、間違いなく後者。
 僕は説田さんの意見を完全には拒絶できない。
「活かすって具体的にどうやって?」
「まずは、自分の都合をどけてみて、相手の目的を見極めてみればいいんです。大丈夫、悠司君ならできます」
 説田さんは力強く頷いてみせた。
「……もしかして、だから僕が蝶野さんとの交渉をしようね、って話ですか?」
 一応、僕は聞いておく。
「はい。なにしろ準備室の整理ができるかどうかは、アナタたちの問題ですから」
 にこやかに告げる説田さん。
 この人、単純に百パーセント善人というわけでもなさそうだ。
 僕は美術準備室の扉の前に立つ。
 内心気が重い。蝶野さんとの交渉に失敗したら、虎目さんがキレかねない。
 説田さんは僕にコミュニケーションの才能があると言ったが、僕には信じられない。
 僕はクラスの人間とロクに喋れない人間だ。蝶野さんのような自由人を説得できるわけがない。
 僕は改めて背後を振り返る。
 そこには案の定、口をへの字に曲げた虎目さんの姿。
 ここで後退したらその段階で僕の人生がグランドフィナーレ。
 ならば、もう当たって砕けろだ。
 僕は美術準備室の扉をノックした。
「アタシは今立て込んでいる。この扉は何があっても開けんぞ!」
 蝶野さんは予想通りの返答。立て込んでいるというより、立てこもっていると表現した方が適切である。
「えっと、とりあえず出る出ないは別にして、僕はそっちの事情が聞きたいんだ。確かに僕と虎目さんは生徒会長からのお使いで美術準備室の片付けに来た。でもね、僕らはどうして、わざわざ生徒会長がこの仕事を僕らに割り振ったのかを知らない。もしかして、蝶野さんは、その理由に心当たりがあるの?」
「あるよ」
 扉の向こうで、蝶野さんが端的に答える。
「だったら、えっと、その理由を教えてくれないかな? 僕はまず蝶野さんの話を聞くところから始めるべきだった。無理矢理に押し入ろうとしてごめんなさい」
 扉越しには僕の姿は見えないだろうが、僕は蝶野さんに頭を下げた。
「う、むむう。そうだね、確かに悪いのはいきなり来たそっちだけど、アタシもちょっと衝動的に動きすぎた。自分を抑えられないのが病気だとしても軽率だったよ。こちらこそ、ごめんなさい」
 蝶野さんの謝罪。
 ……自分を抑えられない病気ってなに?
 蝶野さんの言葉に、多少引っかかるものを感じながら、僕は話を進める。
「それで、どうして蝶野さんは僕らの仕事の妨害を?」
「アタシは君たちの邪魔をしたいんじゃない。アタシだって、無関係な人を巻き込むのは本意じゃない。でもね、君たちが生徒会長の味方をするなら、アタシはどんな手を使っても立ちふさがるよ」
 あのコミュ障生徒会長、ここでも嫌われているのか。うちの生徒は、もうちょっと生徒会選挙に真面目に取り組むべきだったな、これは。
「生徒会長は、一体なにを考えて僕らをここに派遣したのか、蝶野さんにはわかるの?」
「わかる。あの人は、アタシたちの美術部を廃部に追い込むつもりなんだよ」
「……え?」
 いきなり出てきた穏やかでない言葉。僕は驚きの声を漏らす。
「いい、あの人は今、部活動全体で大幅な予算のカットを行おうとしているの。カットした予算は、秋頃に行われる文化祭に割り当てられる。噂では生徒会長、すっかり失墜してしまった自分の評判を回復させるために、そんな真似をしようとしてるらしいの。学園祭が盛り上がれば、教師生徒共に自分を見直すだろうってカンジで」
 あの生徒会長、そんなことを企んでいたのか。
 はっきり言って阿呆だ。
 確かに文化祭を盛り上げるのも大事だ。けれど、部活動も立派な学校生活の一つ。
 自分の評判を上げるためだけに、予算編成を動かすのはあってはならないこと。
 現状、生徒会長の不純な動機は噂の産物でしかないかもしれない。けれど、火のないところに煙は立たない。そもそも、あの生徒会長ならば、本当にそんなバカげた理由で予算案を変更しかねない。
「でね、生徒会長は、この学校にはイラスト部やマンガ研究会もあるから、似たような部はいくつも要らないと言うの! 失礼な話だよね! アタシたち美術部は絵画や造形専門で、イラスト部さんはCGがメイン。マンガ研究会さんはサブカルの道の探究者たち。それを一緒くたにしちゃうなんて、それぞれの部の人たちに対する最大級の非礼だよ」
 僕が聞き役に徹しているからか、蝶野さんは聞かれてもいないことまで話し出す。
 僕は、そういう話もしっかりと聞いておく。
 無駄話かもしれないことでも、後々有益な情報になるかもしれない。
 手持ちの情報は大いに越したことはない。
「さて、どうしたものか……」
 僕はひとりごちる。
 蝶野さんの話を聞き、僕は生徒会長に与する気が完全に失せた。
 だから、蝶野さんを美術準備室から引きずり出す気にはなれない。
 とはいえ、それだと早く帰りたがっている虎目さんと利害が一致しない。
 僕は再度後ろを振り向く。
 ゴゴゴゴゴ……なんて効果音でも背負っていそうなまでに虎目さんの表情は険しい。
「飯豊、ちょっとどけ」
 虎目さんに言われて僕は、横にずれる。
 今度は虎目さんが扉の前に。
「おい、蝶野。いい加減に出てこい」
 重々しく、抑揚のない声で虎目さんは言う。
 って、せっかく僕が蝶野さんとの対話を成功させたのに、それをぶち壊す気か?
 僕の頭は真っ白になる。しかし虎目さんに逆らう勇気はない。
「なに? やっぱり君の方は生徒会長に味方するの?」
 不機嫌そうな蝶野さんの声。
 虎目さんは、そんな蝶野さんに表情をますます険しくさせた。
「そんなことはしねえよ!」
 虎目さんは叫んだ。
 いきなりのことに僕は目を点にするしかない。
「……え?」
 蝶野さんの方もびっくりしているらしく、扉の向こうから声が漏れてくる。
「いいか、オレは影でこそこそと動く卑怯な輩が大嫌いだ。だから、詳しい事情も教えないで、オレにその部屋の整理を命じた生徒会長に無性に腹が立っている。だから、オレはその部屋の片付けなんてしてやらない。むしろ、これから生徒会室に殴り込む。だから、いつまでも立てこもってないで出てこいや。お前はこっちでみんなとクッキーでもつついてろ」
 扉越しの相手に、虎目さんは不敵に笑ってみせた。
 その笑顔は肉食獣の獰猛さ。なのに、僕は不覚にもそれを美しいと思ってしまった。
 それから待つこと十数秒。
 美術準備室の扉が開いた。
 どうやら僕らの説得は功を奏したようだ。
「きゅぅ、お騒がせしてごめんなさい」
 姿を現した蝶野さんは、まず頭を下げてきた。
「いいってことよ。こっちもお前の事情を聞こうともしなかったしな。んじゃ、オレは公言した通り生徒会長をぶん殴ってくるわ。デキの悪い子は、叩けば直るだろう」
 虎目さんは、生徒会長をまるで接触不良の家電製品のように評する。
 殴り込みとは物騒な。
 もうちょっと穏やかな解決策はないものか。
「君は暴力でしか物事を解決できんのか?」
 虎目さんを諌めたのは鳴海さんだった。
「なんだよ、オレのやり方に文句でもあるのか?」
 出鼻をくじかれた虎目さんは、鳴海さんに食ってかかる。
「大ありだな。君が美術部のために動いてくれることには感謝しよう。けれど、それを大義名分に暴力沙汰を起こされては、こっちが迷惑だ」
 鳴海さんはクッキーを手で弄びながら、虎目さんに言う。
 再び険悪なムード。
「二人共、喧嘩はダメですよ~」
 しかし、帯電した空気は説田さんによって即座に中和される。
 説田さんマジ天使。
「でもよ、オレがいっちょやってやるって言ってるのに、それに水を差すのは無粋だろ」
 虎目さんは、説田さんに抗議の声を上げる。
「私も暴力は反対ですねえ。いくら生徒会長がデタラメな人でも、殴りつけたら罰せられるのは茨さんです。私たちのせいで、茨さんが咎めを受けるのは心が痛みます」
「だったら、オレには他にどんな手があるっていうんだよ? まさか話し合いで平和的に交渉するか? それこそありえない。オレはどうせコミュ障なんだ。交渉なんてできるかよ」
 鼻で笑う虎目さん。その矛先は説田さんではなく、多分虎目さん自信だ。
 コミュ障という言葉で自分を縛り付けているという意味では、虎目さんは僕と同じだ。
 だから虎目さんが自嘲したくなる気持ちは痛いほどわかる。
 コミュニケーションは人間関係形成の基礎。人間関係の形成は豊かな人生を送る必須条件。
 よって、コミュ障というだけで、それはもうほとんど負け組。
 だから、コミュ障な人間は、コミュ障である自分を憎む。
 虎目さんとて、コミュ障を直す努力をしなかったわけではあるまい。だけど彼女は、いまもって乱暴な性格のまま。
 虎目さんもきっと、自分の偏った性格に苦しんでいるのだ。
「……私は、コミュ障という言葉が嫌いです」
 すっかり卑屈になってしまった虎目さんに、説田さんは言う。
「だろうな。説田みたいなコミュニケーション能力の塊からすれば、コミュ障なんて嫌悪の対象だろうよ」
 ますます苦り切った顔で、虎目さんは笑う。見ていて痛々しくなるような笑顔だ。
「違います。私が嫌いなのは『コミュ障』という呼び方です。性格が普通じゃないこと自体はその人の宝物だと思います」
「はあ?」
 いきなりの説田さんの言葉に、虎目さんは間の抜けた声を上げた。
「茨さんはギフテッドという言葉をご存知ですか? ちなみにスペルはこうです」
 説田さんは黒板まで歩いていき、チョークで【Gifted】と書いた。
「……なにそれ?」
 すっかり虚を突かれてしまった虎目さん。そんな彼女にいたずらっぽい微笑みを返す説田さん。
「『天から特別な才能を授かって生まれた人たち』という意味の言葉です。確かに茨さんは喧嘩早くて、思ったことをストレートに口に出す癖があります。だけど、それは長所にもなりうる茨さんの特別な才能です。だから、茨さんは『ギフテッド』なのだと私は思います」
「意味がわからない……。オレの性格のどこが才能なんだよ! こんなもの、オレの人生の足を引っ張るお荷物だ!」
「アナタがそう思うなら、その通りでしょう。だから、まずアナタ自身が自分の才能に気づいてください。アナタは激しい気性の持ち主かもしれない。でも、それ自体には善も悪もないんです。世の中には、自分の言いたいことを言う勇気が持てなくて困っている人はたくさんいます。なのに茨さんは自分の気持ちを素直に表現できる。これが才能じゃないならなんなんです?」
 説田さんの問い。虎目さんは返答に窮するしかない。
 説田さんは更に、畳み掛けるように続ける。
「それに支配的な性格は、使いこなせば最強の武器ですよ。それは人のために使えばリーダーシップやカリスマというものに姿を変えます。歴史に名を残す英雄や指導者のほとんどが持っていた気質です」
 次いで説田さんは僕を見る。
「悠司君の性格だって立派にギフテッドです。アナタは自分の観察癖を欠点とみなしていましたが、それは間違いです。理性的な分析は、冷静な観察から生まれるもの。分析という足元を照らす灯りがなくては、どんな偉業も達成できません」
 力強く説田さんは断言してみせる。
 そして、彼女は最後に言うのだ。
「茨さんは情熱的に行動するタイプで、悠司君は冷静に物事を捉えるタイプ。正反対な性格ですが、正反対だからこそきっとお互いを補えるはずです。だから、生徒会長のところには二人で行くべきです。二人の長所を上手く掛け合わせることができたら、それは二倍どころか二乗の効力を発揮するはずです」

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