ギフテッドな僕ら/第9話

~修羅場は男の甲斐性です~


 昼休み。僕と虎目さんは学食で唐揚げ定食に箸を伸ばす。
 虎目さんは肉食系女子にもかかわらず、綺麗な食べ方をしている。正しい箸の持ち方で、流れるように唐揚げを口まで運ぶ。
 いつぞやの土曜日、ケーキ屋でスイーツを大破壊させた人間とは思えない。彼女の挙動は、おそらくだが精神状態に激しく左右されるのだろう。
 現在の虎目さんの気分は上々。
「やっぱり、煩わされることがないときに食べるメシは美味いな」
 花のように虎目さんは笑う。
 煩いとはすなわち、生徒会長のことだ。
 今朝、生徒会予算の問題を僕が解決してから、虎目さんは機嫌がいい。
 彼女としても、美術部の存続は気がかりだったようだ。彼女はコミュ障であっても、義に厚い性格だ。
 ギフテッドという考え方を授けてくれた説田さんには、恩義を感じているのだろう。
「そうだね。上手くいくといいね、白鷲さん」
 僕は心から白鷲さんの成功を祈る。
 もし、生徒会役員の説得に失敗したらまた面倒事になりかねないわけだし。
「あいつ、また生徒会役員を道具扱いしたりしないよな?」
 虎目さんは、急に顔を歪めて疑問を口にする。
「僕もそこは不安だね。だけどまあ、白鷲さんも同じ失敗を二度は繰り返さないでしょう。……論拠はないけど」
「へえ、直感に頼るとは、分析マニアの飯豊にしては珍しい」
 ずいぶんな言われようだが、事実なので否定できない。
「ときには、理由もなく人を信じてみるのもいいんじゃないかな」
 僕がそう言うと、
「飯豊の言い分は若干ながら太平楽。けど、白鷲会長はちゃんと立ち回っているよ」
 テーブルの横に、男子生徒が立っていた。
 自毛と通せなくもないであろうほどに軽く脱色した髪をミディアムの長さに整えた、お洒落な印象を与えてくる生徒だった。
「なんの用だ? 黒馬夏夜(くろうまなつや)」
 虎目さんは警戒を浮かべながら、男子生徒の名を呼んだ。
 僕も男子生徒――黒馬君とは既知の仲だ。
 彼は僕と虎目さんのクラスメイトだ。
 同時に黒馬君は生徒会の役員でもある。ちなみに役職は会計。
「そんなに構えないで欲しいな、虎目さん。俺は今朝の件のお礼と、白鷲会長のその後を報告しに来ただけだ」
 爽やかな微笑を浮かべながら、黒馬君は告げる。
「白鷲の……?」
「その通り。実はついさっき、会長にメールで生徒会室に呼び出されてね。飯豊のプランを生徒のためにしてみたいからといって、俺たち他の役員に頭を下げてきた。いやはや驚いたね。白鷲会長があんなに謙虚な態度を取れるなんて」
「んで、お前ら他の役員はどう答えたんだよ」
「最初はかなり渋い顔をしていたよ。これまでの生徒会長の傲慢な振る舞いもあったし、なによりプランが荒唐無稽だ。けどまあ、そこらへんは俺がフォローしておいたよ。生徒会の会計役の意見としては試す価値ありだと言ってね」
 黒馬君は虎目さんに大して臆することなく言葉を並べ立てる。
 すごいな、黒馬君。僕でさえ、未だに虎目さんにはおっかなびっくりで接しているというのに。
「いやー、それもこれも全部飯豊の知恵のおかげだよ。ありがとう、感謝している」
 そう言って黒馬くんは一礼する。
「あ、いや、そんな。僕は単に思いつきを追い詰められたから口にしただけで……。そんなに凄いことはしていないよ」
 人に感謝されることに慣れていない僕は、大慌てで弁解し始める。
「おいおい、そこは胸を張っておけばいんじゃないか? 白鷲の暴走を止めたのは飯豊なわけだし、黒馬の話じゃお前のアイデアを叩き台にこれからの生徒会は動くみたいだし」
 身を縮ませる僕に、虎目さんは苦笑する。
「そうだね。飯豊には自信が足りていないな。もうちょっと、堂々と振る舞えば女子にもモテるぞ、きっと。結構イイ顔持ってるんだから」
 黒馬君は茶化すように言ってくる。
「そ、そんなことは……」
 僕は半ばパニックを起こしていたが、黒馬君はなおも聞いてくる。
「ところで、飯豊と虎目は付き合ってるの? 最近、妙に仲がいいけど」
 この質問には僕だけではなく、虎目さんも慌てふためく。
「な、な、なに言ってんだ、お前! オレと飯豊がそんなわけないだろう!」
 顔を真っ赤にさせる虎目さん。
 どうやら色恋沙汰には耐性がないらしい。
「ふーん、そうなんだ。まあ、縁は異なもの味なもの。今後のお前らがどうなるかなんて誰も知らないけれどね」
 そう言うと黒馬君は去っていく。
 僕はちらりと虎目さんを一瞥する。すると虎目さんも僕に目を向けていたため目が合った。
「な、なんだよ、オレにガンつけてるのか?」
「いや、そういうのではなく、なんとなく虎目さんが気になったというか……」
「歯切れの悪い言い方だな」
「だったら、虎目さんはどうして僕を見てたの?」
「オ、オレもなんとなくだよ。悪いか?」
 僕はブンブンと首を横に振る。
 若干、いやかなりギクシャクした空気になってしまった。
 こんな空気にした黒馬君はすでに人ごみに消えていた。
 この後、僕たちはお互い無言で食事をした。なんとも消化に悪そうな会食で僕は五、六時間目も悶々とするハメになった。

   ◆

 放課後、僕と虎目さんは美術室を訪れる。無論、生徒会長に対して行ったプレゼンについて報告するためだ。
 一応の事情は、説田さんにメールで報告してある。しかし、メールだけでは味気ないということもあって直接出向くこととあいなった。
 美術部の皆様に無断で、勝手に部活間コミュニティなど提案してしまった件については深く反省するばかりだ。
 僕は美術室の扉に手をかける。
 緊張は禁じえない。
 もしも、美術部メンバーから謗りの言葉を浴びたらどうしよう。
 蚤の心臓と書いてガラスフルハートとルビを振る僕に、地球のみんな、ちょっとずつでいいから勇気を分けてくれ。
「なにビクビクしてんだよ。やっちまったものは仕方ないだろ。オレも謝ってやるから、さっさと入るぞ」
 虎目さんが、臆病な僕の背を叩く。叩いてくれた。
 振り向くと、そこには世にも優しい笑顔。肉食獣には全くもって似つかわしくない。
 だけど、不覚にも僕はドキリとする。普段とのギャップが果てしない。
 地球のみなさん、やっぱり勇気の送信は結構です。僕には虎目さんがいる。とりあえず、僕は彼女のために勇気を振り絞ってみるとします。
 僕は美術室の扉を開けた。
 向かいの窓から、僕らめがけて光が差し込んでくる。光に慣れない僕は、目を細めてしまった。
 室内ではすでに、美術部三人娘が待っていた。なお、ここで言う美術部三人娘とは、説田さん、蝶野さん、鳴海さんのお三方を意味するのであしからず。
「ようこそ、お二人とも! 今日は大手柄だったね。昼休みに、君たちのクラスの人から噂が回ってきたよ」
 蝶野さんは太陽の朗らかさ。
「そ、そうなんですか? だったら、わざわざ報告に来る理由なんてなかったですかね?」
 僕は自分がでしゃばった真似をしてしまったかと内心で焦る。
「いえいえ、今ここという場所に二人がいる。それだけで意味はあるんですよ」
 聖女の煌きを湛えながら説田さんは言う。
「そんなもんかね? 少なくとも今回の一件では、活躍したのは飯豊だ。オレの方は生徒会室に突っ込んでいったりしただけだ。オレは役立たずだよ」
 虎目さんはシニカルに言い捨てる。
 そんな虎目さんを説田さんはじっと見つめる。
「な、なんだよ?」
 汚れない眼差しに気圧される虎目さん。
「それ、本気で言ってます?」
「『それ』とは?」
 落ち着かない様子で虎目さんは問い返す。
「自分が役立たずだなんて言っちゃダメです。たとえ、今回の件の中核をになったのが飯豊君だったとしても、彼が進むべき道を切り開いたのは誰です? 私は虎目さんがいなかったら、飯豊君は今回の仕事を成し遂げられなかったと思います」
 そう言うと説田さんは、視線を僕に投げる。
 視線を受け取った僕は、恥ずかしながら言葉を紡ぐ。
「説田さんの言うとおりだよ。僕はどうしょうもなくビビリで、一人では前に進めない。虎目さんがいたから、僕は白鷲さんから生徒会予算のデータをもらうことができた。そのおかげで、今回の一件に対してアイデアを出せた。だから、虎目さんは役立たずなんかじゃない。虎目さんがいなければ、僕の方こそ役立たずのままだった。だから……改めて言わせてほしい。ありがとう。虎目さんのおかげで僕は変われた」
 最後のセリフは、いうべきか一瞬迷った。
 本当に感謝していればいるほど、感謝の言葉を口にするのは緊張するものだ。
 だけど、思いは言葉にしなければ伝わらない。
 だから、僕は虎目さんに伝えた。
「ば、バカ! なにをいきなり言い出すんだ! お、お前に感謝されてもほんのちょっとくらいしか嬉しくないんだからな!」
 虎目さんは顔を真っ赤にさせながら、手をジタバタさせる。
「ほほう、これが世に言う『つんでれ』か」
 鳴海さんが哲学者の厳粛さで事態を考察。
「う、うるせえ! オレが照れてなんてない! ほ、本当だぞ!」
 ますますもって、虎目さんのパニックは深まっていく。案外、虎目さんはからかうと楽しい人なのかもしれない。
 このまま虎目さんで遊ぶのも一興だけれど、度が過ぎてキレられたら興ざめだ。
 なので僕は話題転換を図る。
「それで、美術部のみなさんはこれからどうするんです? 他の部の人とコラボレーションするといっても、とっかかりは必要でしょう?」
 自分が提案したアイデアではあるが、実は細かい段取りは雲を掴むような話だったりする。
「さしあたって、友好条約締結の証の旗印でも作ってみようかと考えています」
 説田さんは言うが、抽象的な説明すぎて僕は首をかしげるしかない。
 僕が戸惑っていると、美術室の扉が開く音がした。
「お邪魔するわ」
 振り返る。入ってきたのは白鷲さんだった。シーツのような白い布を持っての入室だった。
 白鷲さんだけではなく、彼女の背後には黒馬君もいる。
「おや、飯豊に虎目じゃないか。これは奇遇だね」
 黒馬君は、僕たちに声をかけてくる。
「あ、うん、奇遇だね」
 慣れていない人と接するのは基本的に苦手な僕は、黒馬君の言葉をオウム返しするしかない。自分のアドリブの効かなさが嫌になる。
「く、黒馬君、いらっしゃい」
 言葉を突っ返させながら黒馬君を歓迎したのは説田さんだった。説田さんは緊張している様子だった。
 全身に妙に力が入っている。僕の知る説田さんは、見ているだけで人に安心感を与えてくるような印象をまとった人だったのに。
 もしや、黒馬君になにかしらの弱みを握られているのか?
 僕は名探偵もかくやという推理を試みる。しかし情報不足から出力される結論などない。よって断念。
 食らいついたら離さない様から『スッポンの飯豊』なんて渾名をつけられることは永久にないだろうし、そんな渾名は要らないです。
「こんにちは、説田さん。今日も可愛いね」
 黒馬君はナチュラルに説田さんを褒めた。その流れはあまりにも自然。かなりのレベルで女慣れしているとお見受けする。
「そんなことないですよ! からかわないでください!」
 顔を紅潮させながら、けれど頬が緩んでいる説田さん。
 説田さんと黒馬君を眺めながら『青春だなあ』とか、年寄りのようなことを考える僕。こういった甘々イベントは、傍から見ているに限りますな。僕は人生のタイムラインに入ってもROM専です。
「それで、白鷲さん。その布は一体なんなんです?」
 青春を謳歌している説田さんと黒馬君はとりあえず保留して、白鷲さんに聞いた。
「これは、生徒会の備品よ。去年の学級旗作り用に購入したもののあまりなの」
 白鷲さんが説明してくる。話の本筋とは関係ないけど、白鷲さんの喋り方に毒気がなのには驚いた。
 身なりはボサボサなままだけれど、心は整っている印象を受ける。
 朝までは濁りきっていた彼女の瞳は、すでに穏やかなものへと変化していた。
「どうしたの、私の目なんか見ちゃって?」
 僕の観察行動に気づく白鷲さん。
「あ、いや、なんというか、ごめんなさい。僕なんかにガン見されたら不愉快ですよね」
 慌てて謝る僕。
 ところが、白鷲さんは僕の瞳を覗き込んでくる。
「そんなことはないわ。むしろ嬉しいくらいよ」
 僕の眼前で白鷲さんが微笑む。
 垢抜けない身なりではあっても、白鷲さんは地が美人。そんな人に艶然とした態度をとられてご覧なさい。女慣れどころかそもそも人が苦手なシャイボーイが平常心を保っていられようか。
 僕の脳の演算能力では、この状況を適切に処理するのは不可能だ。
 現状でも白旗を振りたいのに、白鷲さんは更に僕に問う。
「ねえ、飯豊君は今、彼女いる?」
「うふぇ?」
 想定外の質問に、僕は奇声をあげるより他はない。
「ふふふ、その様子だと現在フリーっぽいわね。というか、今まで異性と付き合った経験もないとみた」
 辱めだ! 確かに僕は年齢と彼女いない歴がイコールだ。コミュ障舐めんな!
 これまでの僕は彼女を作れなかったんじゃない! 彼女を作らずに済んだのだ!
 とかなんとか、レトリックを尽くしても虚しくなるだけだった。
「いっそ、殺してください」
 同情するなら、いっそ死を与えるのも優しさだと思うんだ。
「……なぜ私が飯豊君を屠る必要があるのかはわからないけど……だったら私と付き合ってみない?」
「……は?」
 僕の思考が瞬く間に漂白されていく。
「だから、私を彼女にする気はないかって聞いてるのよ」
 会長はずずずいーっと僕の顔に、自身の顔を近づける。何かのはずみで唇が触れてしまいそうだ。
 だが、それは一瞬のことだった。
「バカ言ってんじゃねえぞ、コミュ障生徒会長!」
 虎目さんが僕と白鷲さんの顔を、強引に引き剥がす。
「あら、なにか問題でも?」
 底知れない笑みを湛えて白鷲さんは虎目さんと対峙する。
「飯豊をからかうなって話だ。飯豊もなに鼻の下伸ばしてるんだ!」
「虎目さんは飯豊君の彼女なの?」
「いや、違うけど……」
「だったら、私たちの問題に口を出さないでもらえるかしら」
 そう言うと、白鷲さんは僕の腕に抱きついてくる。
「うい?」
 僕は下級戦闘員みたいな悲鳴を上げる。
 虎目さんを挑発するのは危険行為だ。白鷲さんは死ぬ気か?
 虎目さんの瞳には殺意。その剣呑さにはドラゴンスレイヤーの称号を与えても問題はないだろう。
「と、とにかく! 飯豊をからかうな! からかうなったら、からかうな!」
 急に幼児退行の兆候を見せる虎目さん。
「ふーん、そういうこと」
 なにか納得したらしい白鷲さん。
 すいません、どういうこと?
 白鷲さんは、僕の腕から離れる。
 恐ろしい。これが修羅場というものか。って、どうして彼女もいない僕がそんな窮地に陥らなきゃならないんだよ。
 そもそも、僕に彼女なんて贅沢すぎるって話だ。
 恋をする、人を愛するとは、人生において最もコミュニケーション能力を求められる行為。コミュ障の僕が彼女を手に入れても、すぐに破綻するに決まっている。
 確かに僕は、観察と分析を重ねて、それなりの理屈に到達できる能力を持っているかもしれない。
 けれど、きっとそういう屁理屈が効かないのが恋なのだ。
 僕に彼女ができたら、周りの皆様が噴飯するのは目に見えている。
 恋は高校生にとって最大の関心事。だけど、僕はそんな一般的な風潮に背を向けるしかない。
 そもそも、僕は人格検査をするまでもなく内向的な性格だ。交友関係も狭い。
 そんな人間に彼女ができるなんて、話ができすぎている。できすぎた話からは距離を置くのが上策だ。
 人は幸せを手に入れてしまうから、その反動で不幸になる。
 不幸になりたくなかったら、そもそも幸せにならなければいい。
 考え方がネガティブに過ぎるのは自覚しているが、修正する手立てはない。
「悠司君、今、ものすごく後ろ向きなこと考えてませんでした?」
 いきなり内心を読まれて、僕は口から心臓を吐き出すかと思った。
 指摘したのは説田さんだった。
「な、なぜそれを?」
「そんなの顔色を見ていればわかります。ものすごく、深刻そうにしていました。お節介になるかもしれませんが、悩み事なら聞きますよ?」
「悩みってほどのことでもないんですけど、僕は恋をしてもいいんでしょうかね?」
 僕の質問は枝葉末節を省きすぎて、逆にわかりずらいだろう。でも、僕としてはそうとしか言いようがない。
 そんな質問力が皆無な問いに説田さんは、
「もちろんです。恋をしちゃいけない人間なんていません。それは絶対に絶対です」
 迷いなく返してきた。あまりの躊躇のなさに、あっけらかんとした印象さえ与えてくる。
「あいかわらずポジティブですね。ポジティブの元があるなら、僕にも少し分けてください」
「私はドラえもんじゃないので、そんな便利な道具は持ってないです。ポケットも三次元構造ですし。それでもアドバイスができるとしたら……思い切って好きな人をデートに誘えると素敵ですね。そんなことできたら、ネガティブなんて吹き飛んでいきますよ? 悠司君には好きな人とかいないんですか?」
 むむ、いきなり聞いてきますか。
 なにやら周りは興味津々の様子で僕に視線を殺到させる。
 みんな目を輝かせて僕の答えを待っている。
 けれど、僕はみんなの期待には答えられない。
「現在、僕には恋い慕う相手はいません。いや、現在というか現在までにと言ったほうが適切かな」
「ほう、つまり初恋すらまだ、ということか」
 虎目さんが、難しそうに眉間にシワを寄せる。他の人の反応も似たりよったりだ。
 恋愛至上主義のご時世においては、僕のような輩は異端者なのだ。
 いつの時代も、マイノリティは辛いものだ。
 場の空気が、まるで僕を哀れむ会みたいな様相を帯びている。
 これはいただけない。
 同情するならコミュ力をくれ! とか叫びたくなってくる。
 なので、強引に話題を転換させてしまおう。
「話を元に戻しましょう。白鷲さんの持ってきた布は一体なんに使うんです?」
 文脈をぶった切るとは、まさにコミュ障ならではの所業。誰もそこにシビれないし、憧れないだろうけど。
 さようなら、コイバナ。ウェルカム、現実的な話。
「実はですね、美術部とイラスト部、そしてマンガ研究会でコミュニティを作るにあたって旗を作ろうと思うのですよ。バラバラなものが一つにまとまるなら、なにかシンボルがあった方がわかりやすいでしょう?」
 説田さんが説明する。
 説田さんの意見は言い得て妙だ。
 人は団体や組織を形成するときにシンボルを作りたがる。それは国家だったり、学校だったり、あるいはクラスだったり。
 シンボルなんてなくても組織は組織として機能するだろう。けれど、ないとどこか物足りない。人とは不思議な習性の持ち主である。
「それに、善は急げといいます。生徒会さんが部活動コミュニティの幹事をしてくださるなら、早め早めに仕事をしているところを色んな人に見せつけた方が、後々の運営がスムーズにいくでしょう。アイデアは出たけど、実際はなにも動いていないと言われるのだけは避けなければなりません。だから、生徒会さんの備品を分けてもらうという形で私たち美術部は依頼をしたんです」
 説田さんの頭の回転数には舌を巻く。僕が白鷲さんに部活動コミュニティを提案したのは今朝のこと。そこから情報を入手して、更なる一手を打っていく。常人にできることではない。恐ろしい子!
「というわけで、他の部の人とスケジュール調整ができたら旗作りをします。そのときは、ぜひ生徒会の方、そして悠司君と茨さんも来てくださいね」
 説田さんは言うが、僕と虎目さんは首を捻る。
「どうしてオレらも来る必要がある?」
 虎目さんの疑問は至極自然なものだ。美術部でもなく、生徒会役員でもない僕らには参加する権利があるとは思えない。
「それはいわゆる『言いだしっぺの法則』というやつですよ。それとも、お二人は放課後お忙しいですか?」
 痛いところをついてくる説田さんに、僕らは反論できなかった。

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