Golden Bad

 五月十一日の金曜日になっても、私こと各務原流香《かがみはらるか》のゴールデンウィークは終わらない。
 今年のゴールデンウィークはカレンダー的には最適の位置取りをしていた。四月二十八日が土曜日になり、翌日の昭和の日が日曜日。その影響で四月三十日は振替休日。
 五月の一日と二日は世間的には平日。しかし、うちの高校は学校側の配慮で夏休み開始日を二日送らせるという工夫で以って、無理矢理に授業日数を調整し休日とした。
 更にカレンダーの上では、五月六日は日曜日となる。そのため、今年のゴールデンウィークは合計で九連休という大型連休と化す。
 だけど私は現在、十五連休目に突入していた。無論、学校は七日から再開しているため、私一人だけが大型連休を、超大型連休に転変させている。
 延長したゴールデンウィークの間、私の生活リズムは乱れに乱れていた。夜中まで漫画を読んだり、いわゆる乙女ゲーをプレイし、翌朝八時頃に眠りにつく。私にとっては『めざましテレビ』は『おやすみテレビ』だった。
 起床するのは夕方頃。私の部屋は西側に面しており、夕日とともにグッドモーング……いや、正確にはグッドイブニングか?
 そして、母親に部屋の前までトレイに載せて運ばせた夕食を食べると、漫画やゲームに着手する。
 自堕落ここに極まり。それとも世間ではこれをとって五月病というのだろうか。
 現在私は高校一年生。四月は夢と希望に満ちた一カ月だった。けれど、夢や希望なんて日々の現実で擦り減って、いつかは破綻を迎えるものだのだ。
 今は灰色の生活を送っている私だが、ゴールデンウィークの入り口は、私にとってまさに黄金で出来ていた。
 入学式から四月最後の授業日までを通して、私は高校で好成績を収めていた。
 好成績といっても授業での評価が高いとかそういう意味ではない。いわゆるクラスでのポジション取り――もっといえばスクールカーストでまずまずの成果を収めたのだ。
 目立ち過ぎて叩かれないけれど、さりとて地味過ぎて侮られるなんてことのない肩の凝らない階層がスクールカーストには存在する。私はそれを勝手ながら【中間層】と呼んでいる。
 私は【中間層】の女子高生として、つつがなく学校生活を送ってきた。
 ちゃんと友達もいる。先生から特に目をつけられるような生徒でもない。
 私の高校生活に足りていないのは、後は彼氏だけ。
 これは私の持論だが、人がリア充になるには三つの段階があると思う。
 第一段階は、ちゃんと学生なり会社勤めなりバイトをして集団に所属することだ。まあ、この段階をクリアするのは案外簡単だ。クリアできないのは精々ニートくらいなもの。これはリア充になるための基礎技能と言える。
 第二段階は親密な友人関係を形成すること。学校や会社やバイト先があっても、そこに友達がいなければリア充とは言い難い。友達作りはリア充になるための中核技能だ。
 そして、最後。第三段階は恋人をつくること。これを以って人は真のリア充となれる。友達よりも親密で甘々な関係。高校生ならばここを目指さなければならない。恋人作りはリア充における発展技能にして到達点。
 ゴールデンウィークを迎えるまでに私はクラスの男子の中に、光輝く逸材を見つけていた。
 隆人《りゅうと》クンというイケメン男子。すらりとした長身で掘りの深い顔立ちの彼のルックスは鑑賞するだけでも眼福だ。それでいて性格は温厚で紳士的。外見、内面共に男前。あんな優良物件を放置するような女子高生は女として枯れている。
 幸いにして隆人クンの座席は私のすぐ後方。声を掛けて親しくなるには絶好の位置取りだ。
 入学当初から私は隆人クンに対してアプローチを試みた。決してウザくなりすぎず、かといって距離を置きすぎず。
 また雑談を通しての情報収集も怠らなかった。それを通して隆人クンに彼女がいないことを確認。然る後に彼が好きだと言った漫画や映画には目をしっかりと目を通して、同じ趣味を持っていることをアピール。自分では上手いこと親密な関係を築けてきたはず……だった。
 そして、ゴールデンウィークになると二、三日置きのペースで、私たちは二人きりで出掛けた。
 映画を観に行ったり、ショッピングモールで買い物をしてみたりとイベント満載のゴールデンウィーク。
 それはまるで夢のような時間だった。
 彼の好きな漫画や映画に目を通しておくことは事前学習となり、会話の話題には困らなかった。隆人クンといる時間はとても楽しく幸せなものだった。
 けれど、それ以上の進展はなかった。私たちは友達以上恋人未満の距離で止まったまま。だから私は今年のゴールデンウィークの最終日に彼に告白することにした。
 恋の告白なんて初めてのことだ。どうすればいいのかわからず、恋愛経験豊富な同性の友達にメールで相談したりもした。
 そして、決戦の日は来たる。私は五月六日の夜に隆人クンを二人の家から自転車で行ける距離にある小高い丘に呼び出した。
 そこから一望できる夜景は壮観でわざわざ展望台まであるくらいだ。そこは地元では恋人達の聖地とも呼ばれ、告白の舞台としては申し分ない。
 待ち合わせの時刻の八時には、すでに隆人クンは展望台で舞っていてくれた。
 私の「ごめん待った」から始まり、「俺も今来たところ」というテンプレート的なやりとりの後、少し雑談に興じてから私は告白した。
「初めて会った時から好きでした。付き合って下さい」
 ――と。
 彼の答えを待つまでの間は心臓が破裂しそうなまでにバクバクいっていた。
 けれど、そんな私の不安は無意味だった。なぜなら彼の答えは――
「俺もずっと君のことが好きだったよ」
 そういって彼は優しく微笑む。
 その言葉を聞いたとき、私は勝利の雄叫びを上げたい気分だった。けれど、雰囲気をぶち壊すわけにはいかないので、大人しい女の子を演じていた。
 そして、隆人クンは真剣な眼差しで私を見つめて、私の時間を縫いとめる。やがて、彼の唇が私の唇に近づいていき――
「そこまでよ!」
 突如として鳴り響いた怒号によって、私たちの甘い時間は破綻した。
 声の方を振り向くと、そこにいたのは腕組みをし仁王立ちをした女性。長身で緩くウェーブした栗色に、凛とした顔立ちはまるでどこかの雑誌のモデルみたいな出で立ち。しかしその女性の眉間には皺がよっており、目は極限までにつり上がっていた。
「カ……カオル……」
 その女性……カオルを見ながら、隆人クンは狼狽する。
「アナタが隆人を誑かしたゴミ虫ね」
 カオルは私を睨みつけながら言った。
 強烈な罵声に、私の全身は委縮した。心臓が縮みあがる思いだった。
「アンタこそ、何者よ!?」
 肉食獣を前にした草食動物みたいな私だったが、舐められてはいけないと思い力の限り吠えた。
「私は隆人の彼女。わかる? カ・ノ・ジョ!」
 噛みつくように私にいってくるカオル。
 わけがわからず私の頭はホワイトアウト寸前だった。
「ど、どうして君がここに?」
 隆人クンは顔を真っ青にさせながらカオルに訊いた。
「私の中学時代の友達に、ゴールデンウィークに入ってからアナタの様子がおかしいって相談したのよ。妙にそわそわしてて、まるで浮気でもしているみたいだってね。そうしたら、その友達からゴールデンウィークの最終日に、クラスの女の子がアナタに告白することを計画してるって情報が流れてきたの。その子が詳細な場所と時刻まで教えてくれたから、こうして張り込んでいたってわけ」
 カオルの言葉に私は愕然とする。
 そして、全てを悟った。
 学校で隆人クンが言っていた『彼女はいない』という発言は嘘で、私は恋の相談をした友達から裏切られた。
 更に、そんな私にトドメを刺すかのごとく、隆人クンはカオルに弁明するのだ。
「浮気だなんてとんでもない。俺はただ、こいつで遊んといただけで、愛しているのはカオル一人だけだよ」
 涼しい顔で目の前の悪魔は甘い言葉を紡ぐ。
「……本当に?」
 カオルの顔から若干の怒気が抜けていく。
「勿論さ。よく見てみろよ。俺がこんな奴に本気になると思うか? 見た目も地味でどこにでもいるような女で、中身だってすっかすか。カオルと比べれば、カオルの言うようにゴミ虫みたいなもんだよ」
 隆人君の顔には笑顔が張り付いているが、私はその奥にある冷たさに震えあがる。
「……いいわ。この話は一時保留にしてあげる。この件に関してはこれからきっちり話し合いましょう。こんなブスのいないところでね」
「ああそうだな。というわけで、バイバイ各務原さん」
 涼しく手を振って、隆人クンは足早にはカオルと去っていった。
 一人残された私は、泣きじゃくった。泣いて、泣いて、泣きはらしたあと、気だるい意識を引きずって、どうにか帰宅した。
 けれど、翌日から始まる学校へ行く気にはなれなかった。
 もう誰も信じられない。
 男子も、友達も、みんな、みんな、みんな……!
 そして、部屋に引きこもった。
 全てのものを憎みながら、私は自分の殻に閉じこもる。
 一人の世界は最高だ。
 この世界を誰にもブチ壊されてなるものか。
 私は部屋に鍵を掛けた。同時に心にも鍵を掛けた。
 見る人が見たら、今私は暗黒面に堕ちたとでも揶揄されるのだろうか。
 そう思うと、また涙が溢れてきた。
 そんなとき、部屋をノックする音が聞こえた。
 誰だろうと、首を傾げる。
 現在は夜の十一時過ぎ。夕食はすでに運ばれてきており、トレイと食器は部屋の前に出してある。
 教師がついに家庭訪問に来たかとも考えたが、やっぱり時間的に考えられなし。夜の十一時過ぎに尋ねてくるような非常識な奴は教師なんてしていてはいけない。
 となると、やっぱり両親か? とか思っていると、扉の向こうから声がした。
「やあ、久しぶりだね流香。久々に顔が見たくなったから寄らせてもらった」
 その声は男性の者と言うのがわかるのが精々でこれといった特徴がないものだった。だけど、その声は特徴がないというのが最大の特徴だったので私は誰なのかすぐに判然とした。
「……水鏡《みかがみ》?」
 と呼び捨てにした相手は私の実の兄。フルネームは各務原水鏡というかなり厳つい名前だが、本人の特徴は全く逆である。
 見た目はルックスや身長、体格を含めて全て平均的。特徴がないことが特徴というスタイルを究極までに煮詰めたような男だ。
 水鏡は既に結婚しており、この家を出て電車で一駅行った街にアパートを借りて生活している。
「何の用? 私はアンタに用事なんてないんだけど?」
 自分の世界を侵略されたような気分になって、自然私の言葉はきつくなる。
「母さんから流香が部屋から出てこないと相談されて寄ってみたんだけど、それだけ元気なら問題はなさそうだね」
 私が攻撃的な言い方をしているのに、水鏡の声は平穏なものだった。それが逆に私の怒りに火をつける。
「アンタは私を馬鹿にしにきたの? なら帰って。すぐに帰って!」
 近所迷惑など考慮せずに、私は声を張り上げる。
 ところがこれにも水鏡は飄々とした態度で、
「うん、じゃあそうさせてもらうよ」
 と、あっさり引き下がる水鏡。
 彼の態度は逐一私の心をかき乱す。心配なのに来た癖に、二言三言言葉を交わしだだけですぐに帰るとは、こいつは真正の阿呆なのか?
「待ちなさい。結局、アンタは何がしたいわけ?」
 水鏡の意図が読めず、私は引きとめてしまった。
「僕は先にも言ったように、久々に流香の顔が見たくなったから寄っただけだよ。ただ、今の状態じゃ顔は拝めそうにないから、それはまた今度の機会にでも、と」
「こ、根性が無さすぎるわ。妹が部屋に引きこもっているのに心配じゃないの?」
「別に? 母さんの話を聞くからには、ゴールデンウィークが明けた日から今みたいな調子なんだろう? それって、つまりゴールデンウィークの延長という人類の夢をかなえているだけじゃないか。僕みたいにゴールデンウィーク関係なしに仕事する人間もいるわけだし、可能なうちに一味違うゴールデンウィークの満喫仕方を覚えるのも一興かと」
 あまりに無神経な発言に、私のこめかみがひくつく。
「わ、わ、わ、私だって好きでゴールデンウィークを延長しているんじゃないわよ!」
 またしても怒鳴ってしまった。
「そうなの? じゃあどうして、ゴールデンウィークを延長中?」
「それは……どうしても聞きたい?」
「そりゃまあ、気にはなるね」
「お母さんやお父さんには内緒にしておいてくれる?」
「約束しよう」
 ここで初めて、水鏡は真剣な物言いで言葉を紡いできた。
 だから私は、彼になら秘密を明かしても無害かもと判断。ゴールデンウィークの隆人事件の顛末を話した。
 それを聞いた水鏡は、こう感想を述べる。
「大変だったね。それなら、部屋に籠ってもしかたない。んじゃ、僕はこの辺でお暇しようなか」
 淡白な対応に、私は逆にイラっとする。
「聞くだけ!? もっとこうあるでしょう? 私を部屋から出すために説得をするとか、そういうのが」
「流香は説得して欲しいの?」
 水鏡の言葉に、私は押し黙るしかない。
 私は部屋から出たくはない。そりゃ現実問題、トイレやシャワーのために部屋を出ることはある。でもそれは昼間両親が外出したり、あるいは夜に寝静まったりしている時間帯を見計らってやっている。だから、両親と顔を合わせることはしていない。
 誰とも顔を合わせない生活は、とても気楽で安楽だ。
 でも、どこか物足りない。
 それは一体どうしてだろう。
「水鏡は私がこのまま毎日をゴールデンウィークにしてしまいたい、と言い出したら、どうする?」
「どうにもしないよ。ただ、それはミダス王みたいだなあと思うだけだ」
 水鏡の口から、聞きなれない単語が紡がれる。
「なにその、ミダス王って? 何かを掻き乱す的な王様?」
 私の貧困な知識には、該当する単語が無かったため、水鏡に訊くしかない。
「ミダス王というのはね、ギリシャ神話に出てくるプリュギアの都市ペシヌスの王様だよ」
「なんでギリシャ神話が関係あるのよ?」
「ギリシャ神話においてミダス王はね、デュオニソスという神様から一つだけ願いを叶えてもらうんだ。ドラゴンボールのシェンロンみたいなものだね。さて、ここで問題。ミダス王はどんなことを神様に願ったでしょうか?」
 いきなりのクイズ形式に私は戸惑う。
 しばし黙考し、
「お金が欲しい……とか?」
 でもミダス『王』ってくらいだから、お金には不自由していないか?
「惜しい。正解は『自分が触れたものを全て黄金に変える力が欲しい』だよ」
「その王様って凄く馬鹿でしょ? 全部が黄金になったら黄金の希少価値が下がって、黄金がガラクタと一緒になっちゃうじゃない」
「その通りだね。でもミダス王の場合、もっと困り果ててしまう。触れたもの全てが金になるってことは、食べるものも金になっちゃうってことだ。当然金を食べることはできない。だから彼は飢餓から逃れるために、もう一度神様にお願いしたんだ。触れたものを黄金にする力を無かったことにしてくれってね」
「それで、そのお馬鹿な王様と、私のゴールデンウィークとどう関係してくるの? あ……」
 言いながら私は気付いた。
「ふふふ、気付いたみたいだね」
 水鏡にしては珍しい意地悪めいた含み笑いが扉の向こうから聞こえてくる。
 ゴールデンウィーク――すなわち黄金週間。
 ゴールデンウィークは学校が無くてとても開放的だ。それはまさに黄金みたいなものだ。
 だけど、私は今、ゴールデンウィークを終わらせることができなくて困っている。そして、このままゴールデンウィークが続いた時の空疎さに怯えている。
 それはまるで、食べ物すらを黄金に変えてしまい、飢えに苦しむハメになったミダス王みたいなものではないか。
 私が唖然としていると、水鏡は付け加えてくる。
「僕は恋愛や人間関係だって同じことだと思うんだ。恋愛や人間関係だって、そりゃいつでもハッピーで黄金の体験であって欲しい。でもね、それだけじゃきっとつまらなくなってしまうよ。黄金を真に輝かせるには、どうしても黄金じゃないものも必要なんだ。それは挫折だったり失敗だったり、裏切りだったり憎しみだったりとドス黒いものなのかもしれない」
「でもね、水鏡。私にはもう黄金なんて一欠けらも残っていないの。世界中の全てが憎くて、真っ黒に思えて。だったら私は真っ黒よりは黄金の方が何倍もマシよ」
 自分の言っていることが子どもの我儘だということはわかっている。だけど、私は自分の汚泥みたいな気持ちをぶちまける。
「全てが黄金であって欲しいと願うのは、全てを灰色にすることに等しいんだ。この世界は、差異があるから価値がある。金色も、黒も、白も、灰色も、とにかく様々な色があるから意味があるんだ。『人間なんて全て駄目』と思うのは、ある意味では差異をなくそうとしたミダス王と同じ願いなんだ」
 水鏡の言葉は、実に筋張った理屈っぽいもので、こんな奴と結婚を考えた相手はきっと変わり者に違いない。
 水鏡の言葉は、きっと正しい。どこまでも正しい。だからムカつく。
 だけど、私はそのムカつく言葉を敢えて咀嚼し、嚥下する。
 終わらないゴールデンウィークを終了にするために。
 そして、私は部屋の扉の鍵を外して、そっと扉を開け放つ。
 廊下には、水鏡が優しい微笑みを湛えていた。
 水鏡は慈愛に満ちた顔で、私の顔を覗き込む。
「やあ、今度こそお久しぶり。顔が見れて嬉しいよ」
「私はアンタの顔なんてどうでもいい。見ていて面白くない」
「だろうね。僕は特徴が無いことが特徴というのを売りにしている」
 肩を竦める水鏡。
 相変わらず掴みどころのない兄。私はそんな彼を困らせてやりたいという衝動に駆られた。
「ねえ水鏡、私、今日から生まれ変わる。月曜日に、学校に戻った時に誰からも舐められないような人間になりたいの」
 私はわざとらしく、にやりと嫌みな笑みを浮かべてみせた。
「……どのようにして?」
 水鏡の顔に若干の混乱が浮かぶ。
「無難な手段として、まずは見た目からよね。だからコンビニに行きましょう」
「いいけど……何を買うの?」
「ブリーチ剤とカラー剤――髪を染めて、ゴールデンウィークデビューをしてやるのよ」
 私が言うと水鏡の瞳から黒眼が消失。卒倒しかけていた。
「それをやると、学校で悪目立ちすると思うけど……?」
「いいのよ。どうせもう、一週間も不登校したり、二股掛けられそうになったりでクラスで悪目立ちするのは必至なんだから。だったら、良い子ちゃんの皮は破り捨てて、好きに生きてやる」
 水鏡は深々と溜息をつき、ちょっと気取った調子で、
「イエス・ユア・ハイネス! こうなったらもうヤケだ。どこまでもお付き合い致しますよ。ところで一体、何色に染めるつもりだい?」
 水鏡はどこか投げやりな態度で訊いてきた。彼としても、私の答えは予想がついているのだろう。
 彼のご期待に応えるために、私はあえて言ってやった。
「もちろん、どうしょうもなく派手に煌めく黄金よ。黒髪の良い子ちゃんの中で、そんな髪の奴がいたらさぞかし差異が生まれるでしょうね」

【Golden Bad】了

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