空気の王に君は成れ/第14話

~デートかもしれないイベント~


 んで、日曜日。
 デートかもしれない久我島との集いは、結局、学校のある市のレジャー施設に集合。映画館あり、ゲームセンターあり、カラオケあり、ボーリング場ありの施設だ。どれか一つは久我島のお気に召すレジャーがあるだろう。
 一応、格好にも気を使ってカジュアル衣装で最大限のお洒落もしてきた。
 集合場所は現地。集合時刻は午後一時。僕は律儀に十分前に到着するように行動していたのだが、集合場所にはすでに久我島の姿。
 白のワンピースを着た久我島はとても清楚。美人は何を着ても似合うものだと感心してしまう。
「ごめん、待った?」
 思わず僕は謝ってしまう。
「ううん、私も今来たところだよ」
 デートでの定番というか、もはや化石化の域にまで突入しているであろうやり取りなど交わしつつ、僕らは施設内へ。
 休日ともあって、施設は人でごった返していた。この施設は、この市の若者の中心的な遊び場であるため、道行く人は九割九部が若者だ。同性の友達同士でつるんでいる集団もあれば、手をつないだ仲睦まじいカップルも。
 そんな往来の中、ものすごく気になるものがあった。
 それは人(特に男性の)視線である。
 皆して僕達に視線を投げてくる。いや、正確に表現するなら、その視線の矛先は久我島だ。
 流石、我が校一の美少女だ。その美しさは校外に出ても恥じる必要のないスペックのようだ。
 ただ、道行く男の殆どが、久我島に鼻の下を伸ばしているという状況は、同道する僕としては不愉快だ。頼むから普通に歩かせてくれ。
 あまつさえ久我島は、
「ねえ涼、手を繋ぎましょう」
「どうして?」
 いきなりの申し出に僕は面食らった。
「えっと、ほら、人が多いからはぐれたら困るでしょう? ね?」
 僕の返答など待たず、久我島は僕の手を取った。
 彼女の手は暖かかった。普段、人に触れること自体が皆無な僕は、それだけでドキリとした。
 これでは、本当にデートみたいだな。
 久我島と手を繋ぎながら歩いていると、往来の男性の視線が変質。久我島には以前鼻の下を伸ばした感じだが、僕に対しては嫉妬というか殺意みたいな視線がぶつけられる。
 視線だけで僕は閻魔帳に名が載ってしまいそうだ。きっと、デートはデスノートの省略形に違いない。
 とか阿呆なことを考えながら、僕らはゲームセンターまでやってくる。
 今回の集いでの真の目的地は映画館だったが、見る予定の映画の上映時間まではしばらく時間がある。なので時間つぶしのためにやってきた。
 手広く様々なゲームに手を出してみた。レースゲームに、音楽ゲームに、UFOキャッチャー、エトセトラエトセトラ。
 僕が舌を巻いたのは、久我島のガンシューティングの腕前だった。彼女は迫りくるゾンビの群れを鮮やかなガン裁きで一掃。『掃除屋』の称号を与えても、何ら恥じるところなし。
「てへへ、やったね」
 画面に『戦闘ランクS』の文字が表示されると、周りの見物客からの盛大な拍手喝采。
 久我島は僕にハイタッチを求めてきた。
 促された僕は、ノリでハイタッチするが釈然としない。二人プレイだったが、序盤から僕は要らない子だった。むしろ、彼女の足を引っ張っていた気さえする。
「久我島さん、凄すぎる。実はその筋の人とか?」
 僕は半分冗談、半分本気で訊いてみた。
「昔からこの手のゲームが得意ってだけ。逆にパズルゲームは苦手だけどね」
「それはそれは、僕とは正反対だね。僕はパズルが得意で、こういうガンシューティングが苦手」
 特技からしても僕と久我島は正反対。これでは僕が久我島が苦手なのもしょうがない。
 ところがこれに久我島は、
「正反対! それって素敵よね。私は涼の苦手分野をカバーできて、涼は私の苦手分野をカバーできる。これって、二人がお互いの弱いところを支え合える最高のパートナーってことよね」
 そうきましたか。
「ポジティブだね、久我島さん」
 その元気を分けて欲しいくらいだ。彼女のバイタリティはどこから湧いてくるのやら。
 そんな不毛な考察をしていると、ケータイがバイブする。メールでも電話でもなく、アラームだった。ゲームに熱中し過ぎて映画の上映時間をすっ飛ばさないように時間になると鳴るようにセットしておいたのだ。
「そろそろ時間なんで映画に参りましょうか」
「うん!」
 そして久我島は大胆にも僕の腕に抱きついてくる。
 くっ! こいつ何が狙いだ! 僕の生命保険か? とか究極の人間不信は単なる冗談。きっと彼女なりに僕をからかって楽しんでいるのだろう。
 ちなみに僕たちが観た映画はハリウッドのアクション映画。これも僕のチョイスだが、僕自身はあまり映画を観ない。なので、単に朝の情報番組でよく見かける映画を選択。
 壊滅的に入れ込みの無い映画だったが久我島は楽しんでいた。爆発やカースタントのシーンで久我島は『おお!』とか『きゃっ!』とか小声ながらも感嘆詞を交えていた。
 この娘は感情表現豊かだ。表情筋がニート気味な僕としては彼女の生態が謎以外の何物でもない。

   ◆

 映画も終わって一段落。時刻は五時を回っていた。そろそろ撤退するには良い頃間。
「じゃあ、帰ろうか」
 僕が言うと、久我島は不服そうな顔。いわゆるジト目で僕を凝視する。
「どうかされました?」
 彼女の気迫に押されて、僕は思わず敬語になる。
「まだ帰るような時間じゃない。もっと遊びたい」
 ジト目を止めた久我島は、今度は誘惑するような甘い表情。
「でも、あんまり遅くなると親御さんが心配するよ」
 無難な答えで対抗。さも相手を気遣っている台詞。それでいて真実は僕自身が早く帰りたいだけ。彼女といてつまらないわけではないが気疲れはする。何せ、こんな美少女を連れて回ったらそれだけで周りが注目してくるのだ。普通の男なら自尊心が満たされるのだろうが、長年空気人間だった僕にとっては他者からの注目はプレッシャー以外の何物でもない。
「大丈夫、両親に今日は遅くなるっていったら、『頑張っておいで』って言われたから」
 どういう親だ。もっと娘の交友関係でやきもきしろよ。
「いや、ぶっちゃけ、僕と一緒に今日回ってみて楽しくなかっただろう? ほら、僕、普段は外であんまり遊ばないから」
「そんなことはないよ。それとも、涼は私といたくない?」
 久我島の瞳はまるでいたいけな小動物。星をちりばめたような輝き。
 そんな彼女を邪険に扱える奴がいたとしたら、そいつは人ではない。鬼だ。
 鬼になりきれない僕は、
「じゃあ、延長コースに入らせて頂きます」
「うん! 次はカラオケしましょう」
 ぐいぐいと腕が久我島に引っぱられ、あっという間に受け付けは済まされて、部屋の一つにご案内。彼女が悪徳商法の販売員だったら、僕は瞬く間に身ぐるみ剥がされていた。彼女が(おそらく)善良な人間である点だけが救いだった。
 内心でマリアナ海峡並みに深いため息をついてから、僕は選曲リストに目を通す。
 せっかく部屋を借りてしまったのだから歌おう。歌って憂さを晴らすんだ。
 僕は中学時代に流行ったバンドの曲を熱唱した。あまり歌は得意ではないが関係ない。観客は久我島一人だけだ。
「はい、次は久我島さんの番だよ」
 僕がひとしきり歌い終えると、久我島にマイクを渡す。
 ところが再びジト目な久我島。当初は対面する席に座っていたのだが、彼女はずずいと僕の横に座り、やはりジト目で見つめてくる。
 なんだこのプレッシャーは?
「あの久我島さん、何か僕は無礼を働いたでしょうか?」
「ねえ涼、どうして私を『久我島さん』と呼ぶの? 私は『涼』って下の名前で呼んでるのに」
「だったら、どう呼べば?」
 何となく、この後の展開は予想できたが、確認の意味も込めて質問。
「私も下の名前で呼んで欲しいな。もちろん、さん付けは無しで」
 久我島の瞳は、世が世なら傾国と比喩されそうなまでに蠱惑的。一般男子の僕がどうやってそんなチャームに対抗できようか。
 高鳴る心音が自覚できる。
 駄目だ。ここで彼女に流されたら、きっとこの先も彼女に主導権を握られ続ける。ここはどうにか切り抜けなければならない。
「久我島さ……」
 言い掛けようとしたとき、彼女の人差し指が僕の唇に当てられる。
「風花って言って」
 ここカラオケボックスだよな? これじゃまるで夜のお店だ。いや、当然行った経験はないけどね。
 ええい、こうなったら!
「ねえ、君はどうしてそんなに僕に構うの? 最初から疑問だったんだ。どうして久我島風花は多々良涼という空気人間をクラス委員長に推薦したのか」
 話を逸らした。同時にずっと以前から気がかりでしかたなかった核心とも言えよう疑問を口にした。
 この問いに久我島は酷く悲しそうな表情。
「その質問をするってことは、もしかして涼は、私との初めての出会いが高校に入ってからだと思ってる?」
「うんまあ……。って違うの」
「そうだよ。私とあなたはずっと以前に出会っているの。そう、あれは二人が中学三年生のときのこと――」

次へ→

←前へ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする